研究課題/領域番号 |
15K06939
|
研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
宇根 ユミ 麻布大学, 獣医学部, 教授 (40160303)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | カエルツボカビ / 両生類 / 宿主 / 病原体 / 生態系保全 / 新興感染症 |
研究実績の概要 |
本研究は、両生類の新興病原体であるカエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis、Bd)が日本の両生類に与える影響を宿主と寄生体(病原体)の双方を解析・評価し「なぜ日本の両生類は死なないのか」その機序を解明しようとするものである。 病原体に関して、2015年は国内野生下両生類におけるBd保菌率およびITS-1領域の塩基配列のハプロタイプの種類、割合とその国内分布を明らかにした。この研究で得られた口器ツボカビ症動物から樹立したBd株を用いて、2016年は各ハプロタイプの増殖態度と病原性を検討した。その結果、流行株タイプC(死亡例より分離)は増殖スピードが速く、一定培養条件下1週間で105から107に達し、大型の遊離性の高い遊走子嚢を形成した。一方、口器ツボカビ症由来株タイプEは緩慢に増殖し、同一条件下で10x5乗から10x6乗であり、集塊状をなす遊走子嚢形成を特徴としていた。Bd高感受性両生類への感染実験では、前者の発症率が高く典型的な症状を示し、持続感染が確認できたが、後者では、感染は成立、継続していたものの、典型的なツボカビ症の症状は不明瞭で、用いた動物によって経過も異なり、両者の病原性の違いが明らかにされた。また、口器を対象とする高感度Bd検査法の検討を行い、動物への侵襲性が低く、簡易な野外調査および希少種にも適用できる検査法を確立し、現在論文投稿中である(修正校提出済)。宿主に関して、Bd感染が両生類皮膚の水透過性を調節するアクアポリンへ及ぼす影響を評価した。2015年は樹上性両生類で、2016年は陸棲両生類で評価した。その結果、Bdの水透過性への影響は両生類の生態によって異なっており、これは両生類の種類による臨床症状の違い、死亡率や病理発生などに関連するかもしれない。また、両生類皮膚抗菌ペプチドのBdへの影響を評価する方法としてのBdスライドチャンバー培養法の検討を行い、評価法を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の両生類がカエルツボカビ(Bd)の影響を受けない機序を解明するために、まず国内に生息するBd、特に日本特異の稀にみるBdハプロタイプの多様性が、両生類の生存にどのように関わるかを検討しなければならない。ハプロタイプは、遺伝子間を埋めるスペンサーであるITS-1領域約300塩基の配列の違いで決定される。ITS-1それ自体の塩基配列は無意味だといわれていることから、ハプロタイプの違いが意味するところは今まで不明であった。そこで、今回、麻布大学が所有する2つのBdハプロタイプについて検討した。その結果、Bdを型別する3つの遺伝子座が同一で、ハプロタイプだけが異なるCとEを同一条件下で培養したところ、増殖形態や増殖速度の違いのみならず、感染実験で病原性が異なることを、世界で初めて証明した。国内のBdには多くのハプロタイプがあるが病原性のないあるいは弱いBdが一定以上の割合で分布する場合、Bd間での競合や宿主免疫などに影響することも考えられた。また、カエルツボカビの培養技術も安定的に使用され、研究室内で継承されていて新たな株の樹立できていることから、さらに解析が進むと考えている。アクアポリンに関しても異なる種類の両生類を用いた実験も終了し、データーの解析に入っている。また、抗菌ペプチドの評価法の検討も終了したこと。ペプチド採取用の両生類に関しても、季節性があり、しばしば入手困難な種類に関してもすでに確保できており、研究はおおむね順調に進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
病原体に関して、1)現有およびこれから樹立されるBd培養株の遺伝子型別、系統解析を引き続き行う。日本由来のBdには、ITS-1-5,8S-ITS2領域に多様性があるため、解析途中の培養株の本領域を検索するとともに、世界的に用いられているBd遺伝子多様性を検討する17の遺伝子座のうち、多くの研究者が採用している3つの遺伝子座の検討を優先して解析する。 2)異なるハプロタイプ、遺伝子座の培養樹立株の増殖速度、態度および形態を把握し、感染実験によってその病原性を明らかにする。また、すでに病原性が確認できているCとEに関しては、病原遺伝子の有無、プロテアーゼなど酵素活性に関して検討する。 宿主に関して、1)Bd抵抗性両生類(ウシガエル、アフリカツメガエル)、Bd高感受性両生類(ツノガエル、イエアメガエル、マルメタピオカガエル)および国内在来種(ヒキガエル、アカガエル、トノサマガエル、モリアオガエル、ヌマガエルなど)から粘液を採取して、粘液のBd不活化の効果を検討する。Bd増殖に影響を与えた粘液および影響のなかった粘液内の抗菌ペプチドの解析を研究協力者である供田先生(北里大学)に依頼する。 以上、病原体と宿主双方の解析成績を総合的に分析して日本の両生類のBdへの抵抗性に関わる要因について明らかにする。
|