研究課題/領域番号 |
15K06940
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研究機関 | 千葉県立中央博物館 |
研究代表者 |
倉西 良一 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (10250143)
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研究分担者 |
栗田 隆気 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (00738841)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 絶滅危惧種 / 保全生物学 / 遺伝的多様性 / マイクロサテライトマーカー |
研究実績の概要 |
シャープゲンゴロウモドキの集団遺伝構造を明らかにするために、核DNA遺伝子マーカー(マイクロサテライトマーカー)を開発した。ギガシークエンサーを使って約100万から180万の塩基配列を読み込んだ。この塩基配列を解析し136対のマイクロサテライトマーカー候補領域を選定、分子生物学的実験解析の結果27対のマイクロサテライトマーカーを開発に成功した。今回新たに開発できたマイクロサテライトマーカーは地域の個体群内の遺伝的多様性の把握や地域個体群の連続性や独自性の解析に重要なものである。これらの分析結果使い、現存する集団の遺伝的多様性、集団内の遺伝子構成を集団遺伝学的解析ソフトを用いて解析した。 止水域に生息する絶滅危惧種ミサキツノトビケラの生息状況を調査しその形態を幼虫・蛹・成虫を記載した。絶滅危惧種オオナガレトビケラについて生息域全域からサンプルを収集し形態・遺伝子の解析をすすめた。従来日本産は1種とされていたが複数の種が含まることが明らかとなった。東アジア産のムラサキトビケラ科の昆虫の形態・遺伝子解析を含めた研究を行い、長らく不明種だった種を再発見した。 個体を損傷させない非殺傷型DNA抽出法の開発を試みた。非殺傷型DNA抽出法は脱皮殻に付着する組織よる全遺伝子抽出法であり、理論的には個体への損傷が全く起こらないため絶滅危惧昆虫の遺伝子解析においては最も必要とされる研究手法であるが、脱皮直後の幼虫脱皮殻を使用しても遺伝子の抽出が可能な場合と不可能な場合があり安定した結果を出す事が出来なかった。脱皮殻に付着する組織が少なくことと、体表に不着したと考えられるツリガネムシなどの他の生物の遺伝子の混入が原因であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
絶滅危惧種シャープゲンゴロウモドキについて千葉、千葉保存系統、石川の個体群について、生の波形データからピークの位置(PCR増幅産物の長さ)を決定・数値化する作業をすべてやり直し、ピーク位置に間違いが見つかった箇所を訂正した。また新規個体群(許認可済)のデータ起こしをして、新たに解析に加えた。本研究では異なるシーケンサーを使ったため、DNA分子の泳動に機材の個体差が出てくる。そこで、ピークの位置の補正のためにのりしろとなる個体を作って、機材間でピークの位置がどれだけずれるか調べてた。 前年度はすべての座位のずれを平均した値を補正値として算出したがが、今回の解析では厳密に座位ごとに補正値を求めた。 今回の解析では生データセット(27座位)から2つのデータを作成した。ひとつは3つ以上のピークを示す座位を抜いた23座位のデータ(TripleRemove)、もうひとつはTripleRemoveにMicroCheckerというソフトを使ってヌルアリル(PCRで増えない対立遺伝子)の存在が疑わしい座位を抜いた11座位のデータ(MCheckerRemove)である。これらのことから保存系統が異なる遺伝子プールの混合状態ではなく、かつての生息地への回復に道が開けた。また千葉の野外個体群と保存系統の間に遺伝的差異が生じていることなどが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年の春の小雨と夏の猛暑により千葉県に生息する絶滅危惧種シャープゲンゴロウモドキの野外個体群の個体数が極端に減少し、危険な状態にあるため遺伝子解析の実施に支障が出た。その中でマイクロサテライトマーカーは計画通り完成し、飼育個体群の野外放逐実施のための遺伝子系統確認作業も完了した。論文化の中で新たに出た課題である既存の研究との整合性をつけるための遺伝子解析を実施完結し最終的な取り纏めとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想できない天候不順でシャープゲンゴロウモドキの個体数が激減し、新たな個体による解析が出来なかったために予算執行が滞った。今年度は核遺伝子を使った解析に区切りをつけ、ミトコンドリアゲノムの解析を今年度分の予算を使用してすすめ、先行研究の結果との整合性をつけて研究の完成としたい。
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