研究課題/領域番号 |
15K06943
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
田原 浩昭 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (90362524)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 染色体 / 相同対合 / 非対合サイレンシング |
研究実績の概要 |
減数分裂は遺伝情報を次世代へ伝達するための配偶子を産生するための特別な細胞分裂サイクルであり、その過程において相同染色体の対合が行われる。相同染色体の対合は、クロスオーバー組換えの基盤を提供し、第一分裂の終わりにおける相同染色体の正確な分離に向けた空間的配置の基盤としても機能する。対照的に、哺乳類や線虫等のオスにおける性染色体の殆どの領域もしくは全領域、そしてフリー型の重複染色体は、減数分裂期において非対合状態である。これらの非対合染色体は非対合サイレンシングと呼ばれる転写レベルの発現抑制を受けることが知られている。非対合サイレンシングは、性染色体の発現調節や異数性の配偶子の形成阻害に関与していると考えられており、トランスポゾンや DNA ウイルスのような外来性 DNA に対する防御として機能している可能性も推測されている。カビや線虫では、非対合サイレンシングの機構は RNAi のそれと類似した側面を持つことが指摘されている。 線虫 C. elegans においては、CSR-1 および類似した Argonaute 蛋白が小分子 RNA と一緒に標的 RNA を切断する Slicer 活性を示すことを筆者は見つけた。Slicer 型 Argonaute 蛋白は非対合サイレンシングを調節するのみならず、正確なホモロジーでのシナプトネマ複合体の形成を手助けすることによって減数分裂期染色体の相同対合を調節する。又、COH-3/4 はコヒーシンの減数分裂期特異的サブユニットの一種であり、シナプトネマ複合体の軸形成に必須であることが知られている。COH-3/4 は非対合サイレンシングにおいても必要であることを見つけている。内在性の RNAi の機構はコヒーシンと協調して、減数分裂期染色体の非対合サイレンシングのみならず相同対合に重要な位置情報の提供に関与しているのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の通りのデータをこれまでに得た。 線虫の RNAi 経路において CSR-1 以外にも減数分裂期染色体の相同対合の制御に関わっている因子があるのか調べる目的で、幾つかの RNAi 変異体を調べたところ、RNA 依存性 RNA ポリメラーゼの変異体の一つである ego-1 も減数分裂期の染色体対合の異常を示すことを見つけた。EGO-1 は何らかの一本鎖 RNA を鋳型として小分子 RNA を合成し、その小分子 RNA と CSR-1 が複合体を形成していると推測される。 これまでの筆者の研究によって、減数分裂期の非対合 DNA サイレンシングと染色体対合の両方に必要なコヒーシンのサブユニットである COH-3/4 の典型的な結合 DNA 領域から、CSR-1 および類似した Argonaute 蛋白と相互作用する小分子 RNA の一部が産生されているという知見を得ている。CSR-1 は細胞質と核の両方で確認されることから、非対合サイレンシングおよび染色体対合の両方と相関性の高い小分子 RNA や鋳型 RNA がどのような細胞内分布を示すのかという疑問が生じる。そこで in situ ハイブリダイゼーション法を用いた解析を行ったところ、COH-3/4 を含むコヒーシンの典型的な結合領域から小分子 RNA の合成鋳型となっていると考えられる長い non-coding RNA が発現しており、その non-coding RNA は減数分裂期の核内で染色体上に存在していることを見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
筆者は CSR-1 や EGO-1 等の RNAi 因子が減数分裂期の核内で染色体の挙動を制御していると考えているが、RNAi 因子の細胞質における mRNA 集団に対するサイレンシング効果が回り回って初期胚における染色体の正常な挙動に重要であるという異説も海外のグループの一つによって提唱されている状況である。モデルの違いは単に解析対象の発生段階の違いに起因すると考えることもできるが、筆者のモデルを強く支持するデータを得ることを目指して、RNAi に関連する CSR-1 蛋白等の細胞内分布の人為的変化が減数分裂期の染色体対合へ与える影響を調べる実験を計画している。具体的には、ゲノム編集法によってアミノ酸配列の一部のみを欠失した RNAi 関連蛋白を発現する線虫変異体を複数作製し、それらの中から対象蛋白の細胞内分布に異常を示す変異体を同定して、その変異体が減数分裂期染色体の相同対合の異常を示すのか解析する。 又、減数分裂期の非対合 DNA サイレンシングや染色体対合の制御に関わっているコヒーシンと RNAi 因子の共通標的領域から発現している、長い non-coding RNA の生理学的機能について解析する。活性残基を潰した化膿レンサ球菌由来の Cas9 ヌクレアーゼ (dCas9) とガイド RNA の複合体が標的 DNA に結合し発現を阻害できる系を利用して、対象とする non-coding RNA の発現阻害を試みる実験を行い、減数分裂期染色体の挙動の異常が見られるのか検討する。 最終的に、内在性 RNAi と減数分裂期の非対合 DNA サイレンシングそして染色体対合の 3者の機構が、どのように相互作用しどのように区別されているのか明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、研究対象としている遺伝子の機能を解析するためにゲノム編集法を用いた遺伝子改変実験を進めている。ゲノム編集には DNA 切断活性を持つヌクレアーゼとガイド RNA を使用するが、H28 年度の研究ではガイド RNA をトランスジーン DNA から発現させる手法を主として用いた結果、合成 RNA を用いる手法に比べて安い費用で遺伝子改変実験を行うことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の研究におけるゲノム編集法による遺伝子改変実験では、ガイド RNA をトランスジーン DNA から発現させる手法を主として用いたが、条件検討の結果として合成 RNA を用いる手法の方が遺伝子改変効率が良いことが判明した。そこで、前年度から繰り越した研究費は主として合成 RNA の作製費用に回し、効率化したゲノム編集法で研究を進める。
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