研究課題/領域番号 |
15K06944
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
入江 賢児 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90232628)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 出芽酵母 / ポリA分解酵素 / 細胞壁合成 / 低分子量Gタンパク質 / polyA鎖 / mRNA |
研究実績の概要 |
出芽酵母のポリA分解酵素であるCcr4は、低分子量Gタンパク質Rho1のGTPase-activating protein (GAP) をコードするLRG1 mRNAの発現を負に制御する。Rho1は細胞壁合成に関与しており、ccr4Δ二重変異株では、LRG1の発現が上昇する結果Rho1の活性が低下し、細胞壁の合成異常となり増殖遅延を示す。ccr4Δ変異株の増殖遅延は、LRG1遺伝子の欠損で抑圧される。また、ccr4Δ変異株の増殖遅延は、Poly(A)-binding protein (Pab1)-binding protein, Pbp1 (ヒト Ataxin-2の酵母オルソログ)をコードするPBP1の遺伝子欠損によっても抑圧される。しかしながら、PBP1遺伝子欠損によるccr4Δ変異抑圧の分子機構は不明であった。今回、Ccr4によるLRG1発現機構を調べた結果、対数増殖期でのLrg1タンパク質レベルは、野生型株とccr4Δ変異株で大きな変化がなかった。定常状態になると、野生型株ではLrg1タンパク質レベルが大きく低下したのに対し、ccr4Δ変異株では定常状態でもLrg1タンパク質は発現したままであった。ccr4Δ pbp1Δ二重変異株では定常状態でLrg1タンパク質レベルが低下した。LRG1 mRNAのpolyA鎖の長さは、野生型株よりもccr4Δ変異株で長く、ccr4Δ pbp1Δ二重変異株ではccr4Δ変異株よりも短くなっていた。以上の結果から、Ccr4とPbp1は、LRG1 polyA鎖のpolyA鎖の長さを調節することにより、Lrg1タンパク質の発現レベルを調節していることが明らかとなった。デキャッピング酵素の周辺で働く因子のうち、Scd6がアルギニンメチルトランスフェラーゼHmt1によってメチル化され、メチル化がScd6のPボディへの局在に重要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は以下のとおりである。(1) RNA結合タンパク質Khd1とポリA鎖分解酵素Ccr4によるmRNA安定性と翻訳の調節機構について、細胞壁合成に関わるターゲットmRNA群の詳細な調節機構を明らかにする。ターゲットmRNAごとに異なる調節を、さまざまな周辺因子との遺伝学的相互作用から明らかにする。(2) 細胞壁合成に関わるmRNA制御において、遺伝学的相互作用から、ヒトAtaxin2の酵母オルソログPbp1、デキャッピング酵素の周辺で働くDhh1, Pat1, Edc1, Scd6、翻訳調節因子Caf20などさまざまな因子が関わることがわかってきた。これらの因子はターゲットmRNAも作用機構も未だ不明であるので、それについて明らかにする。(3) シグナル認識粒子サブユニットSec65はKhd1と結合し、細胞壁合成にも関わる。Sec65がmRNA安定性制御と翻訳制御の機構にどのように関わるかを明らかにする。(4) 出芽部位のRho1を介した局所的な細胞壁合成、出芽の先端成長、細胞壁維持には、Khd1, Puf5, Ccr4, Pop2などさまざまなmRNA制御因子が関わる。Rho1の活性調節におけるRNA制御の全体像を明らかにする。 このうち、(1), (2)について、Ccr4とPbp1による遺伝子発現調節機構が対数増殖期と定常状態で大きく異なることを見出した。また、Ccr4とPbp1はLRG1 mRNAのpolyA鎖の長さを調節することにより、Lrg1タンパク質の発現レベルを調節していることを明らかにした。Scd6がアルギニンメチルトランスフェラーゼHmt1によってメチル化され、メチル化がScd6のPボディへの局在に重要であることを示した。このように研究はおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は以下のとおりである。(1) RNA結合タンパク質Khd1とポリA鎖分解酵素Ccr4によるmRNA安定性と翻訳の調節機構について、細胞壁合成に関わるターゲットmRNA群の詳細な調節機構を明らかにする。ターゲットmRNAごとに異なる調節を、さまざまな周辺因子との遺伝学的相互作用から明らかにする。(2) 細胞壁合成に関わるmRNA制御において、遺伝学的相互作用から、ヒトAtaxin2の酵母オルソログPbp1、デキャッピング酵素の周辺で働くDhh1, Pat1, Edc1、翻訳調節因子Caf20などさまざまな因子が関わることがわかってきた。これらの因子はターゲットmRNAも作用機構も未だ不明であるので、それについて明らかにする。(3) シグナル認識粒子サブユニットSec65はKhd1と結合し、細胞壁合成にも関わる。Sec65がmRNA安定性制御と翻訳制御の機構にどのように関わるかを明らかにする。(4) 出芽部位のRho1を介した局所的な細胞壁合成、出芽の先端成長、細胞壁維持には、Khd1, Puf5, Ccr4, Pop2などさまざまなmRNA制御因子が関わる。Rho1の活性調節におけるRNA制御の全体像を明らかにする。 上記の目的を達成するために、Ccr4, Pbp1を中心にさらに詳細に解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費をできるだけ節約し、次年度の発展的な新しい研究に活用しようとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
Ccr4とPbp1による遺伝子発現制御系について、詳細な分子機構の解析を実施する。他のRNA制御因子の解析もすすめる。
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