研究課題
PS細胞樹立過程における体細胞核のリプログラミングのプロセスは明らかになっていない。また、生体内においても、受精から生殖細胞形成に至る幹細胞系譜の生殖系列では、数回のダイナミックなエピジェネティクスのリプログラミング現象が連鎖的に起きる。これらの現象間には、明らかな機能的違いがある。その違いと制御機構を解明することを目的とする。この過程をin vitroで再現するため、マウスES細胞を始原生殖細胞様細胞(PGC-LC)に分化誘導した。これまで、マウスES細胞には、体細胞核を能動的に幹細胞化する活性があることを見いだしていたが、それ自体がDNAシトシンのメチル化(5mC)の消去と再メチル化を連続的に繰り返していることを見いだした。また、この現象は、クロマチンの緩和領域に特異的にみられ、Tet酵素による5mC の5ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)化と細胞周期を介した5hmCの消去に起因する。その後、脱メチル化領域が再メチル化され、次の脱メチル化サイクルに入る。このES細胞内の「再メチル化誘導」機構は明らかになっていない。本研究では、ES細胞の再メチル化に関わるDNAメチルトランスフェラーゼ(Dnmt)の同定と、PGCやニワトリ初期胚で低い5mC状態に転じる機構を解析する。平成27年度は、ES細胞がエピブラスト様細胞(Epi-LC)に分化すると5mCレベルが増加に転じる機構を解析した。その結果、Epi-LCでの5mC増加にはDnmt3a/3bのみではなくDnmt1活性が強く関連することを見いだした。Dnmt1しか持たないDnmt3a/3b欠損ES細胞(DKO ESC)とDnmt1/3a/3b 全てを欠損したTKO ESCにDnmt1を強制発現させたES細胞株(TKO+Dnmt1 ESC)をEpi-LCに分化誘導する過程で、維持型として知られるDnmt1が新規メチル化活性を発揮してマウスES細胞の分化を制御している可能性を見いだした(未発表)。
1: 当初の計画以上に進展している
Dnmt1がmaintenance型の他にde novo型の機能をもつことは、in vitroの再構築系では実証されていたが、動物細胞の中で活性を有するかどうか、更に、その活性が発生に影響を与える程の機能を有するかどうかは全く不明であった。我々は、発生段階特異的にDnmt1がde novo型の活性を発揮し、エピブラスト状態の分化と安定化に関与している可能性を見いだした。5mCや5hmCの定量解析、免疫染色、MeDIPやhMeDIP解析により、マウス細胞内でDnmt1に新規メチル化能があることを確認した。MeDIPやhMeDIP産物の次世代シークエンス(NGS)解析は、既存の共同研究の枠組みの中でブリティッシュコロンビア大学(Canada)で実施された。更に、TKO+Dnmt1 ESCは未分化状態でほとんど5mC化されないことから、Dnmt1が持つde novo型とmaintenance型の二重機能性は、発生段階特異的に制御されている可能性が明らかとなった(論文投稿準備中)。この重要な発見は、本研究提案書作成当初は予想していなかった。また、ニワトリのエピジェネティクス研究でも予想外の結果が得られた:5hmC変換が活発な発生段階のHH27胚性線維芽細胞でChIP-seq解析を国立遺伝学研究所の共同研究の枠組みを利用して実施した。これまでニワトリは高5mC状態で、反復配列を多く含む大型のマクロ染色体(MAC)はヘテロクロマチンと考えられてきたが、ニワトリ胚では極めてクロマチンの緩い状態にリプログラミングされていることが明らかとなった。この染色体レベルでの活性変化からMACは条件的にヘテロクロマチン化する特性をもつと考えられる。しかし、その発生段階(あるいは細胞種)特異的な染色体レベルのクロマチン制御機構は全く未知であり、重要な今後の解決課題である。成果:関連論文(Kubiura, M. et al., Chromosome Science, 18:15-22, 2015)、招待講演[国外(1)、国内(1)]、学会 [国際(3)、ワークショップ(1)、口頭(3)、ポスター(2)]、研究会(2).
平成28年度は、マウス:TKO+Dnmt1 ESCの未分化と分化細胞を比較し、Dnmt1の新規メチル化活性を制御する機構解明を目指す。ニワトリでは、マクロ染色体を発生段階(細胞種)特異的に制御する機構を明らかにする。共に平成27年度までの研究成果を論文化する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
Chromosome Science
巻: 18 ページ: 15-22