基本転写因子TFIIDはSAGAとともにコアプロモーター上で働き、TBP-DNA相互作用を制御することによって転写の活性化を行う。最近我々は、同一のプロモーターからTFIIDまたはSAGAによって転写されるCLN2 mRNA(以下CLN2 mRNA[TFIID] or [SAGA])が機能の異なる二種類のCln2pに翻訳されること、特にCLN2 mRNA[SAGA]はRAMシグナル経路 & Ssd1p-Mpt5pによる局所翻訳制御を受ける可能性を強く示唆する結果を得た。そこで昨年度は、主に遺伝学的な解析を行い、①ΔRAM ssd1株とcbk1-S745F SSD1株を掛け合わせた二倍体株からは、四分子解析後にΔRAM cbk1-S745F ssd1株は一切得られないこと(ただしΔRAM cbk1-S745F SSD1株は得られる)、②ΔRAM ssd1株とcbk1-S745F ssd1株を掛け合わせた二倍体株からは、問題なく四分子解析後にΔRAM cbk1-S745F ssd1株が得られることを明らかにした。以上の結果は、掛け合わせ前のcbk1-S745F SSD1株内において、Ssd1pの正常な機能が必須となる何らかの状況が後天的に生じたことを示唆している。ΔRAM cbk1-S745F SSD1株の微弱な生育は、数回~数十回の分裂を経て通常の生育速度へとepigenetic & stochasticに変化するという一昨年度の知見も踏まえ、Ssd1p/Mpt5pが標的RNAとともに形成する液滴オルガネラの性状が、その溶解を誘起するRAMシグナル経路の活性状態によって大きく変化するという分子モデルを新たに構築し、現在その検証を試みている。
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