分裂期染色体構築の過程において中心的役割を果たすコンデンシンIの分子機能の解明を目指し、特にコンデンシンIのkleisinサブユニットCAP-Hの役割に注目して解析をおこなった。進化的に保存されたCAP-Hのサブドメインに変異を導入した五種類の変異型複合体を作成し、顕著な染色体構築異常を示した二種類の変異(III-6Q、IV-5Q)について解析を進めた。 CAP-Hの中央領域にあるサブドメイン(モチーフIII)に変異を導入したIII-6Q変異型複合体は、バナナ様の形状をしたDNAクラスターの中に異常な軸様構造が絡まり合う表現型を示す一方で、カエル精子核の代わりにマウス精子核を基質として用いた場合には、比較的正常に近い染色体を形成した。興味深いことに、トポイソメラーゼ IIを除去して基質DNAの絡み合いが解消されにくい条件にすると、III-6Q変異型複合体がDNAクラスターの過剰な凝縮を引き起こすことがわかった。これらの結果は、基質DNAの絡み合いの程度とコンデンシンIの自己集合能のバランスが適切な染色体構築に寄与することを示唆しており、III-6Q変異ではそのバランスが崩れ自己集合能が過度に強化されているのではないかと考えられる。一方、CAP-Hのカルボキシル末端側にあるモチーフIVに変異を導入したIV-5Q変異では、コンデンシンIのHEATサブユニットの一つCAP-Gと相互作用できず、正常な五量体のホロ複合体を形成できないことを見出した。IV-5Q変異型複合体はCAP-Gサブユニットを欠失したサブ複合体と同様な表現型を示すことからモチーフIVがCAP-Gとの相互作用に必須なドメインであると考えられる。これらの解析から、コンデンシンIの機能に対するCAP-Hの二つのサブドメイン固有の機能的および構造的貢献のメカニズムが明らかになった。
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