研究課題
細菌型光受容膜タンパク質は物質輸送や信号伝達に重要な役割を果たしている。レチナールを有するレチナール結合膜タンパク質は、光照射によるレチナールの光異性化を起点とする光反応サイクルを経て、光受容体としての機能が活性化される。しかしながら、このとき生成する光活性中間体とタンパク質間の相互作用や構造変化については、まだ不明な点が多く残っている。本研究課題は光受容膜タンパク質の機能発現に重要な光活性中間体を新規に開発したin situ光照射固体NMRを用いて定常的に捕捉し、タンパク質側の動的構造変化の詳細な解析を行う。これにより、光活性構造変化により生じる物質輸送や信号伝達の分子機構を明らかにすることを目的とする。研究対象として、生物が示す感覚応答のモデルとして注目されている光走性の信号伝達を司る細菌型光受容膜タンパク質およびイオン輸送活性をもつイオン輸送膜タンパク質を研究対象とする。この中でも、高度好塩菌に存在する光駆動型プロトン輸送活性をもつバクテリオロドプシンと負の光走性を担うセンサリーロドプシンII(SRIIあるいは ppR)および正の光走性を担うセンサリーロドプシンI(SRI)を研究対象としている。本年度は光駆動型プロトン輸送活性を持つバクテリオロドプシンのY185F変異体を用いて、この試料の光反応サイクルをin situ光照射固体NMRを用いて、中間体を定常的に捕捉することを試みた。この結果、暗状態ではAT-状態とCS-状態がモル比1:3で共存していたが、緑色光照射により、CS-状態はCS*-中間体に変換し、AT-状態はN-中間体を経て、暗状態にすると、O-中間体に変換することが明らかになった。CS*-中間体、O-中間体のNMR信号は本研究により初めて観測することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではレチナール膜タンパク質がレチナールの異性化に応答して変化するタンパク質の局所動的構造変化を明らかにするため、レチナールの異性化を観測するのを可能にするin situ光照射固体NMR分光器の開発を行った。超伝導磁石の外側からLED光源により発生した光をフォトファイバーを用いて磁石内に導入し、固体NMRプローブの上部に誘導した。次に透明なガラスキャップをジルコニア試料管の蓋として使用し、光を試料内に導入して試料管内部から照射する方式を確立することができた。このin situ光照射固体NMRを用いて、センサリーロドプシンII試料に緑色光照射を行い、M-中間体の捕捉に成功した。さらに、これまで、観測されていなかったN-中間体の観測にも成功した。さらに青色光を照射することにより、M-中間体からO-中間体に変換される過程を観測することに成功した。N-中間体とO-中間体が平衡状態になっていることも本実験で明らかになった。バクテリオロドプシンY185F変異体を用いてin situ光照射固体NMRを用いてレチナールの光中間体の観測を試みた。緑色光照射を行った結果、CS状態はCS*中間体に変換することが判明した。さらに活性状態であるAT状態はNー中間体に変換することが判明した。低温で光照射状態から暗状態に戻したところ、O-中間体の捕捉に成功し、始めてO-中間体のNMR信号の観測に成功した。また、N-中間体は緑色光照射下では、N-中間体からG-状態を経てN-中間体を形成することが判明した。
これまでの研究でSRI、SRII,Y185F-bR変異体についてin situ光照射固体NMRを用いて光中間体の捕捉の過程を研究してきた。この結果SRIでは緑色光照射により正の光走性を示すM-中間体の捕捉に成功している。されに青色光照射によって負の光走性を示すP-中間体の捕捉に成功した。今後はレチナールのみならずタンパク質側の信号を観測してレチナールの異性化に伴うタンパク質の構造変化の観測を推進する計画である。SRIIについては低温緑色光照射によって、負の光走性を示すM-中間体の捕捉に成功している。またこれまで観測されていなかったN-中間体の観測にも成功した。またこれまであまり観測例のないO-中間体の観測にも成功している。この試料についても、タンパク質側の構造変化の観測を今後は推進していく計画である。バクテリオロドプシンY185F変異体において、in situ光照射固体NMR測定を行い、M-中間体の捕捉に成功している。また、観測例のないCS*-中間体の観測に成功している。M-中間体はバクテリオロドプシンのプロトン輸送活性に重要な中間体であるので、今後はこの試料についてもレチナールの異性化に伴うタンパク質の構造変化の研究を推進していく計画である。
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