研究実績の概要 |
本課題では、従来の溶液NMR法では対象となり得なかった、高分子量蛋白質および巨大蛋白質複合体について、核緩和機構を最適化した立体整列安定同位体標識(Stereo-array isotope labeling: SAIL)アミノ酸と高圧NMR法を駆使して、動態構造を解明する新たな手法を開発する事を目指す。 これまで、数種の核緩和最適化SAILアミノ酸を分子量82kDaのMSG及び分子量 1MDaに及ぶGroELES複合体に導入した。その結果、従来法では観測する事ができなかった芳香環や脂肪族のCHシグナルを高感度かつ立体特異的に観測することに成功した。また、様々なアミノ酸残基のメチル基CH3シグナルをアミノ酸特異的かつ立体特異的に、自在の組み合わせで標識する事にも成功した。この結果、シグナル同士の縮重が大幅に軽減され、シグナルの帰属さらには圧力変化に伴うシグナル変化を正確に捉えることが可能となった。実際MSGにおいては、圧力変化に伴い、一部の芳香環やメチル基のシグナルで、反転運動や回転異性体間の交換運動を捉える事に成功した。 平成29年度は、交換運動解析のためのEXSY実験を進めた。また、GroEL-GroES複合体を対象に、緩和最適化SAIL標識試料の調製ならびにNMR測定を進めた。Ile, Leu, ValおよびMet残基由来のメチルCH3シグナルの観測に成功した。特にMet残基由来のメチルシグナルでは、GroEL-ES複合体形成時には、化学交換によると思われるシグナルの広幅化や分裂が確認された。一方、芳香環由来のCHシグナルの観測においては、複合体形成時には十分な感度が得られず、一部のシグナルしか観測できなかった。今後、GroEL-GroES複合体における芳香環CHシグナルを高感度に観測するためには、更なる安定同位体標識技術の改良が必要とされる。
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