研究課題/領域番号 |
15K06967
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
有吉 眞理子 京都大学, 工学研究科, 特定研究員 (80437243)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 構造生物 / リン脂質 / 酵素 / X線結晶解析 |
研究実績の概要 |
生体内に存在する多種多様なリン脂質は、細胞内環境を維持する細胞膜の形成、細胞内外の物質輸送、膜タンパク質の局在・活性制御に関与し、シグナル伝達のメディエーターとしての機能も担っている。近年、リン脂質脂肪酸鎖リモデリング経路で働くリゾリン脂質アシル転移酵素群が、これらリン脂質の多様性と恒常性の制御に関与していることがわかってきた。本研究では、リン脂質リモデリングに関わるアシル転移酵素のひとつとして同定されたリゾホスファチジルコリンアシル転移酵素LPCAT1の構造機能解析を行った。 LPCAT1は、膜貫通領域、1-アシルグリセロール-3-リン酸-O-アシル転移酵素 (AGPAT) ファミリーに共通する3つの配列モチーフを含む触媒ドメインに加えて、EF-handカルシウム結合モチーフを持つ。これまでに、LPCAT1の脂肪酸転移アシル化活性に関して、異なる基質に対してカルシウム非依存的なアシル転移活性とカルシウムによる阻害効果を示すが報告されている。そこで、第一に、EF-handドメインの結晶構造を2.4 A分解能で決定し、そのルシウム結合能を検証した。アミノ酸配列から予想された通り、このドメインには2つのEF-hand モチーフが含まれていた。得られた結晶構造とNMR滴定実験の結果から、N末側のモチーフにはカルシウムが弱く配位することができるが、典型的なEF-handモチーフと比較するとそのカルシウム結合能は顕著に低いことが示された。また、C末端側のモチーフにはカルシウム結合能はみられなかった。すなわち、EF-handドメインのみではカルシウムに特異的な結合しないことが示唆された。しかし、触媒ドメインとの相互作用によりEF-handドメインへのカルシウム結合が促進される可能性がある。現在、触媒ドメインとEF-handドメインも含む領域の発現、精製を行い、構造機能解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度前半で、カルシウム結合モチーフである2つのEF-handを含む領域 (アミノ酸325~495)の精製、結晶化を行い、位相決定のためのセレノメチオニンを導入したタンパク質試料を調製した。セレンの異常分散効果を用いて初期位相を決定し、結晶構造を決定した。H27年度後半から本年度(H28年度)では、得られた結晶構造を元にこの領域のカルシウムおよび他の金属への結合特異性を等温滴定カロリメトリー測定およびNMR滴定法を用いて解析した。また、LPCAT1と同じく1-アシルグリセロール-3-リン酸-O-アシル転移酵素 (AGPAT) ファミリーに属するリゾリン脂質アシル転移酵素であるLPCAT2のEF-hand領域についても大量発現、精製、結晶構造解析を行い、機能の比較を行った。これらの結果については、現在、成果発表のための論文を作成中であり、LPCAT1のカルシウム結合ドメインに関する構造機能解析は概ね予定通りに進んだ。 一方、触媒ドメインの構造機能解析については、可溶性タンパク質として大腸菌内で大量に発現させることが難しく、触媒ドメインとEF-handドメインを含む領域の解析に計画を変更した。本領域は、膜貫通ドメインを欠いているものの、全長における構造機能相関を検証するに十分な領域であると考えた。現在、微結晶を得られており、条件の最適化を行っている。また、このタンパク質試料を用いて、基質との結合実験を行った。H28年度では、概ね予定した実験を終了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、前年度着手した触媒ドメインとEF-handドメインを含むLPCAT1の構造機能解析を継続して行う。当初の計画では、全長タンパク質における触媒ドメインとEF-handドメインの協調的な機能発現機構を理解するために、各ドメインの結晶構造解析を行ったのちに、その構造情報に基づいて、全長LPCAT1のドメイン配置や分子会合状態の解析を行う予定であった。EF-handドメインの構造機能解析は予定どおり終了したが、触媒ドメインのみでは構造解析に十分な量の均一な試料を得ることが困難であった。一方、膜貫通領域を欠失した触媒ドメインとEF-handドメインの両方を含む領域 (N末端欠失LPCAT1) は、大腸菌内で大量発現、精製することができている。この試料を用いて、微結晶を得ている。このような状況のもと、最終年度では、N末端欠失LPCAT1の構造機能解析を行っていく。結晶化条件を改善し、X線回折データーを収集、構造決定を行う結晶の改善ができない場合、X線小角散乱法によって構造情報を得る。触媒ドメインの結晶構造は得られていないが、LPCAT1は、1-アシルグリセロール-3-リン酸-O-アシル転移酵素(AGPAT)ファミリーに属する小胞体膜上に局在するアシル転移酵素であり、その触媒ドメインにはAGPATファミリーに共通する3つの配列モチーフを含む。このことから、LPCAT1の触媒ドメインのホモロジーモデルを構築することが可能である。すでに決定しているEF-handドメインの結晶構造と合わせて、ドメイン間の配向や基質結合による構造変化を検証することが可能であると考える。
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