本研究では、リン脂質リモデリングに関わるアシル転移酵素のひとつとして同定されたリゾホスファチジルコリンアシル転移酵素LPCAT1の構造機能解析を行った。 LPCAT1は、膜貫通領域、1-アシルグリセロール-3-リン酸-O-アシル転移酵素 (AGPAT) ファミリーに共通する3つの配列モチーフを含む触媒ドメインに加えて、EF-handカルシウム結合モチーフを持つ。昨年度までに、EF-handドメインの結晶構造を2.4 A分解能で決定し、そのカルシウム結合モードを明らかにしている。論文作成のため、これまでに得られたapo型、Mg結合型、Ca結合型のEF-hand ドメイン構造の比較、さらに既知のEF-hand motifとの比較、類似性の検証を行った。その結果、予測されたcEF-handモチーフに加えて、配列から予測できなかった 2つの‘hidden’EF-hand (hEF-hand)モチーフを有することがわかった。hEF-handは典型的なカルシウム結合ループ領域を持たず、cEF1のヘリックス配置やループ構造を安定化する役割を果たしている。このような特徴的なドメイン構造は、ミトコンドリアのカルシウム結合GTPaseであるMiroタンパク質のカルシウム結合ドメインにもみられる。Miroタンパク質との構造類似性から、LPCAT1のEF-hand ドメインが触媒ドメインと連動してその酵素活性に関与することが示唆される。 前年度着手した触媒ドメインとEF-handドメインを含むLPCAT1の構造機能解析を継続して行った。膜貫通領域を欠失した触媒ドメインとEF-handドメインの両方を含む領域 (N末端欠失LPCAT1) を大腸菌内で大量発現、精製した。基質であるパルミトイルCoAもしくはリゾリン脂質との複合体の結晶化スクリーニング実験を行った。ポリエチレングリコールを沈殿剤とする条件から微結晶を得たが、X線結晶構造解析に適した単結晶を得るにはいたっていない。
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