研究課題
本研究は、高脂血症治療薬の新たな分子標的であると有望視されている哺乳類のナトリウム依存性胆汁酸輸送体NTCP、ASBTの結晶構造解析を行うことを目的とする。一般に膜輸送体の結晶化が困難である主な原因は、精製試料中で複数の過渡的中間状態のコンフォメーション(基質輸送過程で生じる外向き―内向きのコンフォメーション間での動的平衡)が存在することである。本研究では、野生型と比べてコンフォメーション平衡に顕著な偏りを生じさせた変異型輸送体(コンフォメーション遷移状態アナログ)とコンフォメーション固定化抗体を用いて、胆汁酸輸送体ー抗体複合体の結晶化・構造解析を行う。最終的に異なる複数のコンフォメーションの結晶構造を3Å以上の分解能で決定し、阻害剤分子設計に資する動的構造情報の再構成をめざす。ナトリウム依存性胆汁酸輸送体では、2個のNa+および1分子の基質(タウロコール酸)の結合によりコンフォメーション変化が惹起され、交互アクセス機構による輸送サイクルが作動することが知られている。平成27年度には、すでに構造が解かれているASBT細菌ホモログ (PDB: 3ZUY) からの外挿により、ヒト・哺乳類のNTCPおよびASBTのNa+結合部位、胆汁酸結合部位のアミノ酸残基に対して種々の組み合わせでアラニン置換を導入した多数の変異体をSaccharomyces GFP融合発現系を用いて作製し、発現レベルと単分散性を蛍光ゲル濾過クロマトグラフィー (FSEC) を用いて評価した。また、これらの変異体蛋白質の熱安定性もFSEC-TS (Hattori et al., 2012) の方法により解析した。その結果、コンフォメーション平衡に偏りが生じていると考えられる複数の変異体を得た。
2: おおむね順調に進展している
本研究全体の成否を握る鍵は、胆汁酸輸送体を特定のコンフォメーションに固定化し結晶性を向上させる抗体の取得である。目的に適った抗体クローンをできるだけ数多く作製して結晶化の成功確率を高めるためには、良好な胆汁酸輸送体の発現コンストラクトを入手することが必須である。平成27年度の当初目標には、結晶化実験に使用可能な安定性の高い変異体候補を得ることを挙げていたが、それがほぼ達せられたため、おおむね順調に進展していると判断した。
胆汁酸輸送体変異体をPichia酵母またはSf9昆虫細胞発現系で大規模発現させる系を構築し、精製方法を最適化し、結晶化に必要な高品質の精製試料を大量に供給できる体制を整備する。その上で、リポソーム再構成した胆汁酸輸送体変異体を抗原として、マウス免疫・ハイブリドーマ法ならびにラクダ免疫・ナノボディ (重鎖単一ドメイン抗体) ファージディスプレイ法の併用により、胆汁酸輸送体の細胞外親水性領域の立体構造を特異的に認識して結合するコンフォメーション固定化抗体を作製する予定である。目的に適った抗体クローンが得られた後には、胆汁酸輸送体ー抗体複合体を界面活性剤可溶化状態での蒸気拡散法または脂質キュービック相法により結晶化し、放射光回折データに基づき構造解析を行う。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 備考 (1件)
Nature
巻: 526 ページ: 397-401
10.1038/nature14909
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/151001_1.html