研究課題/領域番号 |
15K06970
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 直宏 大阪大学, たんぱく質研究所, 研究員 (80272160)
|
研究分担者 |
児嶋 長次郎 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (50333563)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | NMR / モデリング / データベース / 自動解析 |
研究実績の概要 |
ゲノム配列情報がコードしているタンパク質について、実験的に解明されている立体構造は全体の約10%程度であり、多くの創薬ターゲットの機能構造が不明なままである。近年技術的進歩が著しい構造予測法を用いることによりモデル構造を複数のターゲットとして立体構造ベースによる創薬研究を行う場合、期待される構造情報の精度が十分でないため膨大な費用と時間がかかってしまう。本研究においてはNMR創薬研究のターゲットとなりうるモデル構造の2次データベースを構築し、NMR実験データのデータベースであるBMRBに登録されている化学シフトデータのうち配列相同性が60%以上のデータを持つものをリンクさせる。またUniprot、OMIM、IntActなどの外部のデータベースとのリンクを作成し、機能情報、一塩基置換情報、疾患情報、相互作用情報などをリンクさせた創薬支援データベースをとして完成させる。このデータベースより得られる創薬ターゲットのモデル構造と化学シフト情報を元に、実験的に得られる化学シフトと溶液構造の解析を高精度に自動実行するためのNMR分子置換システムの開発と自動化パイプラインに用いるパラメータ群の最適化を行う。このシステムによる精度の高いNMR分子置換法をリガンド複合体解析と組み合わせることでコストパフォーマンスに優れ、ラボスケールで運用可能かつハイスループットな創薬支援パイプラインを開発し、実際の創薬研究への応用が可能な解析精度の実現を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度においてはNMR創薬研究のターゲットとなりうるモデル構造の2次データベースを構築することを目標としていた。構築手順としてはまず、SAHGデータベースに登録されているモデル構造のうち、40~90%の配列相同性を持つものを選別する。これらは高精度に予測された構造であり、NMRシグナルの自動帰属と立体構造計算を高精度に実現するために利用される。また、これらのモデル構造についてNMR実験データのデータベースであるBMRBに登録されている化学シフトデータのうち配列相同性が60%以上のデータを持つものをリンクさせる。またUniprot、OMIM、IntActなどの外部のデータベースとのリンクを作成し、機能情報、一塩基置換情報、疾患情報、相互作用情報などをリンクさせた創薬支援データベースを構築した。 化学シフトと溶液構造の解析を高精度に自動実行するためのNMR分子置換システムの自動化パイプラインを開発した。パイプラインではモデル構造と既知の化学シフトデータを用い、実験的に測定されたNMRスペクトルデータを入力させる。研究代表者が開発した統合的NMRデータ解析システムであるMagROと外部プログラムであるFLYAを連携させ、NMRシグナルの自動自動解析を実行するシステムとして構築された。 本研究においてはモデル構造データベースのサンプルについて安定同位体を用いた大腸菌による大量発現、精製、サンプル調整を行う。2次データベースより選ばれたターゲットのタンパク質サンプルについてNMRスペクトルを測定し、MagRO/FLYAによる自動的な解析を行う。連携研究者である児嶋らのグループによって小さなタンパク質についてほぼ全自動的な解析が実行されたことを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度に構築された創薬支援データベースには2009年までにPDBに登録されている構造に基づいてSAHGにより作成された予測構造が用いられているが、2010-2016年までの構造が含まれていない。それらのデータを補完するためのモデル構造構築が平成28年度の初期に求められる。また、平成27年度に開発されたパイプラインにおいてはターゲットのタンパク質が示すNMRスペクトル上のクオリティーが高いものを解析対象としている。創薬候補として期待されるサンプルは測定中に試料管内で沈殿や変性してしまい、時間と共にシグナル強度が失われるものも多い。解析対象を難度の高いターゲットへ拡張するために、本年度においてはNMR分子置換法により得られる溶液構造と化学シフトの整合性をvalidation_robotによる正解構造と正解化学シフトとのずれを評価関数として最適化するルーチンを分子置換法システムに搭載させる。ここまでのシステムは多くのプログラムモジュールが介在し、大変複雑になるため全システムのプログラムコードをリファクタリングすると共に、パラメータ群の最適化を行って公開用の最終バージョンを完成させる。評価プログラムvalidation_robotの性能は自動化解析の精度に影響を与えることは明らかであるが、構造決定精度がNMR創薬研究を現実的に実施できるレベルに達しない場合も多いと考えられる。この問題を克服するため、短時間でNMR測定が完了するNUS (Non uniform sampling)法を使う、あるいは児嶋らが開発した残余双極子データを利用したNMR構造評価法を組み合わせることで、構造ベースでの創薬支援パイプラインとしての完成度を高める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度においてはNMR創薬支援サーバー構築、公開するのためのサーバー購入を行った。サーバーの運用に当たっては不測の事態に備えて高速化や保守のためにさまざまなコンピューター系パーツの購入を迅速に行う必要がある。本研究においてもサーバー部品として特に故障が懸念されるハードディスクの交換のために予算を年度末においてもやや多めに残しておく必要があった。実際には幸いにもサーバーのハードディスクの故障は発生しなかったので購入の必要は生じなくなったため小額ながら当該差額が年度末に発生することになった。この差額分は次年度において使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度においてもNMR創薬支援サーバー構築、公開のためのサーバー運用は引き続き行う予定である。高負荷がかかるハードディスクはいつでも交換が可能なようにRAIDとして構築しているが特に設定初期の段階で障害を起こす可能性が特に高い。年度の初期において当該差額となった予算をハードディスク購入のために使用する計画である。
|
備考 |
Multiple Protein Model Searchは高精度に予測されたモデル構造のデータベースであるSAHGを元にBMRB、UniProt、IntAct、OMIMと連携させた検索サイトである。配列類似性、相互作用情報量、一塩基置換情報などを組み合わせたNMR創薬研究のターゲット選定のための検索が可能である。
|