研究課題
分子量が10億にも及ぶPBCV-1のX線結晶構造解析とコヒーレントX線イメージングを目指した試料の大量調製系はこれまでの研究により確立されており、実験に必要な量の試料は十分に調製可能となっている。X線結晶構造解析のための結晶化を妨げる要因であると考えているPBCV-1表面のファイバー状構造体の同定を目的とした各種アッセイを実施したが、現在も同定するには至っていない。また、結晶化条件の探索は継続して実施しているが結晶様の凝集体を得るのみである。結晶化時のPBCV-1の沈降が結晶化を妨げる原因であると考え、クリノスタットを用い重力加速度をキャンセルした状態での結晶化を試みたが結晶性を改善するには至らなかった。巨大分子の結晶は結晶格子が大きくなることが予想されるため、その回折強度は弱くなると考えている。そこで、既にこれまでの研究で結晶が得られている他のウイルス様粒子をモデルとして、X線結晶構造解析の周辺技術開発と整備を行った。モデル結晶を用い、より高分解能のX線回折データを効率よく取得するための放射光施設でのデータ収集法の改良とビームライン整備を前年度に引き続き実施した。放射光を利用した回折実験では放射線損傷を低減させるため、結晶を凍結することが一般的であるが、ウイルスの様な巨大分子の結晶はこれまでの経験から周辺環境の変化に脆弱であると考えている。そこで、結晶の環境変化を極力避けることのできる結晶凍結法である高圧凍結法の改良と整備を実施した。コヒーレントX線イメージングのために既に取得済みであった回折イメージから2次元イメージングに前年度までに成功したが、より高分解能かつ精度の高いデータを取得するために、新たに回折実験を実施した。これまでよりも精度の高いデータ収集に成功しており、新規データからの2次元イメージングにも成功しており、更なる回折データの選別に取り組んでいる。
3: やや遅れている
X線結晶構造解析とコヒーレントX線イメージングを目指した試料の大量調製は恒常的に実施できており順調である。また、コヒーレントX線イメージングのための新たな回折実験を実施し、そのデータ解析を進めているため比較的順調である。しかし、X線結晶構造解析を目指した結晶化では、結晶化条件、結晶化方法、サンプル調製方法と検討を実施したが、結晶取得には至っておらず、予定通り進んでいない。以上の理由より、総合的にはやや遅れていると判断した。
X線結晶構造解析とコヒーレントX線イメージングには大量の試料が必要であるため、試料の大量培養は引き続き実施し、常に十分量の試料を確保することを目指す。コヒーレントX線イメージングではこれまでに取得していたデータに加え、新たに取得したデータからPBCV-1からの単粒子散乱パターンの選別を行い、2次元イメージングを実施する。2次元イメージングを基準に十分量のデータの選別できれば、3次元再構成を目指した解析にシフトする。X線結晶構造解析では結晶化を妨げていると考えているファイバー状構造体の除去を目指した、同定実験を引き続き実施する。結晶が得られた後の回折実験を想定し、結晶の高圧凍結法の改良と放射光ビームラインの整備、ならびに放射光を用いた回折データ取得法の効率化を進める。
前年度に計上していたインキュベータと振とう機を既存設備の効率的な活用により、購入を延期したため次年度使用額が引き続き生じた。また、計画していたデータ取得が遅れており、データ解析のための計算機の選定も遅れたため、年度内の購入を見送った。
インキュベータと振とう機の購入を検討する。また、データ取得の目処がたち次第、データ処理用計算機を選定し、購入する。
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Scientific Data
巻: 3 ページ: 160064
10.1038/sdata.2016.64.