研究実績の概要 |
細菌は,網目構造のペプチドグリカンからなる強固な細胞壁により細胞の形態を保持している。溶菌酵素は,細胞壁を分解し細菌を死滅させたり,部分的に分解することにより細胞分裂を助けたりする。病原性クロストリジウム属細菌に働く溶菌酵素は,ペプチドグリカン分解ドメイン(触媒ドメイン)と細胞壁結合ドメインを持ち,その溶菌活性は極めて種特異的である。本研究の目的は,クロストリジウム属特異的溶菌酵素についてX線結晶解析を行い,3次元構造情報から種特異的な細胞壁認識分解機構を分子レベルで解明することである。前年度までにウェルシュ菌が持つオートライシン(Clostridium perfringens Autolysin, Acp)の触媒ドメイン(AcpCD)のX線結晶解析に成功し,学術誌に報告した(FEBS Lett. (2017) 591, 231-239)。最終年度は,ウェルシュ菌が持つ別の溶菌酵素(CPE1138)についてX線結晶解析に着手した。CPE1138は,アミダーゼ活性の触媒ドメインをN末側に持ち,細胞壁結合ドメインをC末側に持つ。現在,CPE1138の触媒ドメインについて結晶が得られており,2.0 A分解能でのX線データの収集に成功し,構造解析進めている。また,細胞壁構造を認識する酵素として,ウェルシュ菌ソーテースB(CpSrtB)およびその変異体のX線結晶解析に成功した。CpSrtBは,細胞表面タンパク質を基質とし,これを細胞壁に結合させる酵素である。構造解析の結果から活性触媒残基であるCys232を含むループ領域の構造変化が,基質認識および触媒活性に重要であることが予想され,その結果を学術誌に報告した(Biochem Biophys Res Commun. (2017) 493, 1267-1272)。
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