研究課題/領域番号 |
15K06974
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
西 望 香川大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10145047)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | galectin / elastin / crosslink / glycan / lumican / mimecan / prolargin / fibromodulin |
研究実績の概要 |
本研究は、不溶性エラスチンに親和性を示すガレクチン9(Gal-9)が、非糖タンパク質であるエラスチンを認識する分子メカニズムを明らかにすることを主たる目的としている。しかし、平成27年度の研究結果は、Gal-9が結合するのはエラスチン分子そのもの(トロポエラスチン、あるいはその架橋反応によって生じる特殊な分子間架橋構造)ではなく、成熟した不溶性エラスチンに共有結合(ジスルフィド結合以外の、おそらくは架橋反応による共有結合)しているsmall leucine-rich repeat proteins and proteoglycans (SLRPs)ファミリーに属する、一群の糖タンパク質であることを示した:不溶性エラスチン標品に存在するGal-9認識構造を同定するため、可溶性エラスチン標品(高度に精製された不溶性エラスチンの有機酸分解物)を用いて、(1) Gal-9固定化カラムによるアフィニティー精製、(2)逆相HPLC精製、(3)トリプシン分解産物の逆相HPLCによる再精製、(4) N-末端アミノ酸配列分析を行った。その結果、何れもSLRPsファミリーに属するLumican, Minecan/Osteoglycin, Prolargin/PRELP, Fibromodulin, Versicanが同定された。また、不溶性エラスチンに対するガレクチンファミリーの親和性は、Gal-9>Gal-8>Gal-4>Gal-3>>Gal-1>Gal-7の順であり、一般的な糖タンパク質に対する親和性と矛盾しなかった。Gal-9の一方の糖鎖結合ドメイン(CRD)を不活性化した2つの変異体とGal-9を比較すると、Gal-9>>N-末端側CRD不活性化変異体>>C-末端側CRD不活性化変異体となり、不溶性エラスチンに対してC-末端側CRDがより高い親和性を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の当初計画には以下の項目が含まれていた。(1)Gal-9(安定化Gal-9及び各糖鎖結合ドメインを不活性化した変異体)と他のガレクチンファミリーのメンバー(Gal-1, 3, 8)を用いて、高純度不溶性エラスチンとガレクチンの結合を解析する、(2)エラスチンとの相互作用におけるGal-9の2つの糖鎖結合ドメインの寄与を調べる、(3) Gal-9が認識する構造を同定する、(4)典型的な糖鎖に対する親和性との関連を明らかにする、(5) 真核細胞用発現ベクターを用いたエラスチン強制発現の予備実験を行う、(6)ノックアウト動物の組織学的/病理組織学的検討を行う。(1)~(3)に関しては既に終了した。Gal-9が結合するのはエラスチン分子そのものではなく、SLRPsファミリーに属する一群の糖タンパク質であることが分かったため、(4)は意味を持たなくなった(SLRPsファミリーは一般的な糖タンパク質と同様の糖鎖を持つ)。エラスチン強制発現の予備実験は既に終了しているが、(4)と同様(5)を進める意味はほぼ失われている。(6)のノックアウト動物の組織学的/病理組織学的検討もスタートしたが、現時点では、エラスチン(不溶性エラスチン繊維)- Gal-9複合体が関わる新しい機能に関する手掛かりは得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
Gal-9が結合するのはエラスチン分子そのものではなく、成熟した不溶性エラスチンに共有結合しているSLRPsファミリーに属する、一群の糖タンパク質であることが分かった。このため、ブタエラスチンの発現系については、Gal-9がエラスチン分子そのものには結合しないことを確認するための必要最小限の実験(レクチンブロット)を行う。一方、SLRPsはDAMP(damage-associated molecular patterns)として、外的な刺激(生体に危険を及ぼす刺激)に対する炎症反応の誘発に関与することが知られている。Gal-9が自然免疫系、獲得免疫系の調節因子として機能し、炎症反応にも関わることを考慮すると、炎症反応/免疫反応におけるSLRPs(不溶性エラスチンに共有結合したSLRPs)とGal-9の関係を明らかにすることが重要と考えられる。このため、Gal-9による細胞内情報伝達系の活性化に対して、これらSLRPs(プロテアーゼにより不溶性エラスチンから遊離されるSLRPs由来ペプチド)が影響を与える可能性、あるいはこの逆(SLRPs由来ペプチドの作用に対してGal-9が影響を与える可能性)を検討する。平成28年度は,異なる性質を持つ複数のヒトT細胞株を用いる共に,分化誘導(THP-1細胞,U937細胞)による変化も調べる予定である。また,SLRPs(SLRPs由来ペプチド)自身の生理作用とこれに対するガレクチン-9の効果も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額は僅かであり、物品費推定価格の誤差範囲である。
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次年度使用額の使用計画 |
差額は僅かであり、次年度も予定どおり使用する。
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