研究課題
本研究は、不溶性エラスチンに親和性を示すガレクチン9(Gal-9)が、非糖タンパク質であるエラスチンを認識する分子メカニズムを明らかにすることを主たる目的としている。平成27-28年度の研究結果から、Gal-9が結合するのはエラスチン分子そのもの(トロポエラスチン、あるいはその架橋反応によって生じる架橋構造)ではなく、成熟した不溶性エラスチンに共有結合しているsmall leucine-rich repeat proteins and proteoglycans (SLRPs)ファミリーに属する、一群の糖タンパク質であることが示唆された:Gal-9が認識する構造を同定するため、可溶性エラスチン標品(不溶性エラスチンの有機酸分解物)を用いて、(1) Gal-9固定化カラムによるアフィニティー精製、(2)逆相HPLC精製、(3)トリプシン分解産物の逆相HPLCによる再精製、(4) N-末端アミノ酸配列分析、を行った。その結果、SLRPsファミリーに属するLumican, Mimecan/Osteoglycin, Prolargin/PRELP, Fibromodulin, Versicanが同定された。これらの中で、LumicanとProlarginに由来するペプチドが最も多く検出された(各々8種類と7種類)。また、Lumicanに由来するペプチドは3カ所の異なるN-glycanの糖鎖結合部位を含んでいた。一方、VersicanとMimecanについては3種類、Fibromodulinの場合は1種類のペプチドが検出された。更に、組換え型ブタエラスチンを用いて、Gal-9がエラスチン分子そのものには結合しないことをレクチンブロット(ビオチン化Gal-9を使用)により確認した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の当初計画には以下の(1)~(4)項目が含まれていた。(1)不溶性エラスチンをプロテアーゼで処理し、生成するペプチドの同定と生理活性の検索を行う。(2)エラスチン(トロポエラスチン)からエラスチン線維が形成される過程をin vitroで再現し、Gal-9との相互作用を調べる。また、Gal-9 のノックダウン、強制発現がエラスチン線維形成に与える効果を検討する。(3)Gal-9がエラスチン分子そのものには結合しないことを確認するための必要最小限の実験(レクチンブロット)を行う。(4)ノックアウト動物の組織学的/病理組織学的検討(Gal-9とエラスチンの関連)を行う。Gal-9が認識する構造がエラスチン分子そのもの(デスモシン等の架橋構造を含む)ではなく、成熟した不溶性エラスチンに共有結合しているSLRPファミリーに属する、一群の糖タンパク質である可能性が高いことから、(1)と(2)を行う意味は失われている。この点を踏まえて、本年度は不溶性エラスチンに共有結合し、Gal-9に対して親和性を示すSLRPファミリーの同定を主たる目標とし、ほぼこれを達成することができた。(3)については、ビオチン化Gal-9をプローブとしたレクチンブロットにより、Gal-9がエラスチン分子そのものには結合しないことが確認できた。(4)の組織学的検討も27年度に引き続いて行ったが、現時点では、エラスチン(不溶性エラスチン繊維)― Gal-9複合体が関わる新しい機能に関する手掛かりは得られていない。
Gal-9が結合するのはエラスチン分子そのものではなく、成熟した不溶性エラスチンに共有結合しているSLRPsファミリーに属する、一群の糖タンパク質であることが明らかとなった。このため、Gal-9とエラスチン(トロポエラスチンあるいはデスモシン構造等の架橋構造)の直接的な相互作用に関する実験、エラスチン由来ペプチド(不溶性エラスチンに共有結合したSLRPs由来ペプチドを除く)の生理活性検索は行わない。一方、SLRPsはDAMP(damage-associated molecular patterns)として、外的な刺激(生体に危険を及ぼす刺激)に対する炎症反応の誘発に関与することが知られている。Gal-9が自然免疫系、獲得免疫系の調節因子として機能し、炎症反応にも関わることを考慮すると、炎症反応/免疫反応におけるSLRPs(不溶性エラスチンに共有結合したSLRPs)とGal-9の関係を明らかにすることが重要と考えられる。このため、Gal-9による細胞内情報伝達系の活性化に対して、これらSLRPs(プロテアーゼにより不溶性エラスチンから遊離されるSLRPs由来ペプチド)が影響を与える可能性、あるいはこの逆(SLRPs由来ペプチドの作用に対してGal-9が影響を与える可能性)を検討する。最終年度である平成29年度は、2種類のヒトT細胞株(Jurkat, MOLT-4)を利用して実験を行うとともに、分化誘導によりin vitroでmonocyte/macrophage, dendritic cellなどに分化することが知られている細胞株(THP-1細胞,U937細胞)に対する効果も調べる予定である。
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差額は僅かであり、次年度も予定どおり使用する。
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Microsc. Res. Tech.
巻: 79 ページ: 833-837
10.1002/jemt.22708