研究課題/領域番号 |
15K06976
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
沖野 望 九州大学, 農学研究院, 准教授 (90363324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖転移酵素 / 緑膿菌 / 糖脂質 |
研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質は真核生物に普遍的に存在し、細胞内外の情報伝達などの様々な生命現象に関わっている。一方、細菌の中にもスフィンゴ糖脂質を有する一群の細菌がいるが、その生理機能に関してはよく分かっていない。本研究では、我々が最近の研究で見出した細菌由来の二つの新奇糖転移酵素(スフィンゴモナス科細菌と緑膿菌)の機能解析を通して、細菌が有する糖脂質の生理機能を明らかにすることを目的としている。 平成28年度は主として、二種類の新奇糖転移酵素の酵素学的性質を明らかにすることを計画していた。 スフィンゴモナス科細菌が有する新奇糖転移酵素に関しては、結晶化や蛍光標識した基質を作成するために、大腸菌で大量発現させた酵素の精製方法を確立した。さらに、精製した酵素を使用して、本酵素の基質特異性や金属イオンに対する依存性などの酵素学的な諸性質を検討すると共に、本酵素を用いて蛍光標識糖脂質を酵素合成するための反応条件を設定した。 一方、緑膿菌の新奇糖転移酵素に関しても大腸菌で発現させ、精製した酵素を使用して、基質特異性や金属イオンに対する依存性などの諸性質を検討した。また、当該酵素の生理機能を明らかにするために、研究計画を前倒しして、欠損株を作成した。野生株と欠損株から脂質画分を抽出後、TLCとLC-MS/MSにより糖脂質を分析したところ、欠損株では当該酵素の反応産物であると考えられる糖脂質が合成されていないことが明らかになった。さらに、野生株と欠損株の糖脂質の比較により、当該酵素によって合成されると考えられる新奇糖脂質が存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スフィンゴモナス科細菌が有する新奇糖転移酵素に関しては、大腸菌で大量発現させた酵素の精製方法を確立し、精製した酵素を使用して、詳細に酵素学的性質を明らかにすることが出来た。また、緑膿菌の新奇糖転移酵素に関しては、大腸菌で大量発現させた酵素を使用して、酵素学的性質を明らかにする一方で、当該酵素の欠損株を作成した。野生株と欠損株の糖脂質組成を比較したところ、欠損株では当該酵素の反応産物以外にも当該酵素によって合成されると考えられる新たな糖脂質が存在することを見出した。 以上のことから、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は以下の研究を計画している。 スフィンゴモナス科細菌が有する新奇糖転移酵素に関しては、大腸菌で調製した酵素を使用して蛍光標識糖脂質の酵素合成法を開発しているので、合成した糖脂質の構造分析を試みる。また、当該酵素の欠損株を作成することで、生理機能を解析する。一方、緑膿菌の糖転移酵素に関しては、既に欠損株を取得しているので生理機能の解析を試みるとともに、当該酵素によって作られると可能性がある新奇糖脂質の精製と構造解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は当初の研究計画通りに、二種類の糖転移酵素の生理機能解析や反応産物の構造解析を行うが、緑膿菌に新たに見出した糖脂質の構造解析に関する研究を進めることも計画している。これらの研究を円滑に実施するためには当初平成29年度分として計上していた研究費では不足する可能性があったので、平成28年度に使用予定であった研究費の一部を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は糖転移酵素の機能解析と反応産物の構造解析に必要な試薬などに加えて、新規糖脂質の精製と構造解析に必要な試薬などを購入する。
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