研究課題/領域番号 |
15K06977
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
海野 英昭 長崎大学, 工学研究科, 助教 (10452872)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / レクチン / Crassostrea gigas / 糖鎖マイクロアレイ / 等温滴定型カロリメトリー / フロンタル・アフィテニティクロマトグラフィー |
研究実績の概要 |
本研究は解散無脊椎動物由来新規レクチンの探索を行い、得られた新規レクチンについてその一次構造、および立体構造の解析、および詳細な糖特異性の解明等の機能解析を行うものである。
本年度は、これまでのレクチン探索により見出されたマガキ(Crassostrea gigas)由来新規マンノース特異性レクチンCGL1の構造・機能解析を行った。等温滴定型カロリメトリー(ITC)測定、糖鎖マイクロアレイ、およびフロンタル・アフィテニティクロマトグラフィー(FAC)によるCGL1の糖特異性解析の結果、CGL1はマンノース単糖および、複合糖鎖としては高マンノース型糖鎖(High Mannose-type Glycan)との高い結合特異性を有する事が明らかとなった。高マンノース型糖鎖との結合特異性を示すレクチンはこれまでに幾つかのものが知られているが、高マンノース型糖鎖とマンノース単糖の両者に結合特異性を示すレクチンの報告例はこれまでに無く、CGL1が非常にユニークな基質特異性を示す事が明らかとなった。CGL1の構造解析の結果、一次構造および立体構造は既知のレクチンとは全く相同性を示さないユニークな構造をしている事が明らかとなった。CGL1とマンノースの複合体結晶構造解析の結果からは、CGL1はマンノースの認識および結合には複雑な水素結合ネットワークを介している事が明らかとなり、これによりCGL1のユニークかつ特異的な糖認識を可能にしている事がわかった。
高マンノース型糖鎖は病原菌やウイルス等の表面に多く存在し、正常なヒトの細胞表面にはほとんど存在し無い。CGL1のこの糖特異性は、CGL1が高マンノース型糖鎖を表面に有する多くの病原菌・ウイルス等に対し抗生物質・抗ウイルス薬となりうる可能性を示すものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マガキ(C. gigas)由来新規マンノース特異的レクチンCGL1について、ITC測定、糖鎖マイクロアレイ解析、FAC解析により、マンノースおよび高マンノース型糖鎖との高い結合特異性を有する事を明らかにした。次にCGL1の一次構造決定、立体構造解析、および糖鎖複合体構造解析を行い、そのユニークな構造および糖鎖認識機構を明らかにした。 これらの知見をまとめ、現在論文を専門誌に投稿中である。
イシワケイソギンチャク(Gyractis japonica)由来新規レクチンGJL1については、部分一次構造情報を元に遺伝子のクローニングを行い、その全一次構造を決定した。この一次構造は既知のレクチンとは相同性を示さないことから、新規のレクチンであると考えられる。このGJL1についてもCGL1と同様の手法で、その構造・機能解析を現在進めている。
ウチムラサキ(Saxidomus purpurata)由来新規レクチンSPL1についても、プロテインシークエンサーによる部分一次構造決定、遺伝子クローニング、およびそれによるSPL1の全一次構造を決定した。得られたSPL1の一次構造はC型レクチンとの相同性を有するものの、SPL1の糖特異性は一般的なC型レクチンのそれとは異なることから、そのユニークな特異性を裏付ける立体構造の解明が期待される結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
イシワケイソギンチャク由来新規レクチンGJL1,およびウチムラサキ(Saxidomus purpurata)由来新規レクチンSPL1構造・機能解析を進める。構造解析については、GJL1およびSPL1の糖複合体結晶構造解析により、その基質認識機構の詳細を明らかにする。機能解析としてはITC、糖鎖マイクロアレイ、およびFAC分析によりGJL1およびSPL1の糖鎖特異性について詳細な解析を行う。
CGL1はその特徴である高い糖特異性、SS結合を含まないユニークな構造、また大腸菌を用いて比較的容易なタンパク質の発現が行える特性から、タンパク質精製に用いるタグとしての有用性が期待できる。そこでタグとしての有用性を確認するために、膜タンパク質を含む各種タンパク質との融合タンパク質を構築し、CGL1タグを用いた精製の検討を行う。検討項目としては、培養および発現誘導条件の最適化、および精製条件の最適化を行い、CGL1の精製用タグとしての有効性を検討する。
加えて、他の無脊椎動物由来新規レクチンの探索を並行して行い、十分量のレクチンが得られた場合は、CGL1と同様の手法でその構造・機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画の想定よりも早く研究が進み、年度の後半は論文作成に注力する事としたため、 試薬等の購入費用が節約できた事によるもの。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した研究費は、次年度の構造機能解析研究に充てるとともに、次年度以降に計画している新規レクチン探索研究に必要な機材・消耗品の購入に使用する。
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