線維芽細胞増殖因子受容体1 ( FGFR1)は様々ながんに関わる重要な創薬標的分子である。これまでに複数の阻害剤が開発されているが薬剤耐性変異体の出現が問題となっている。本研究課題では、FGFR1-阻害剤間相互作用の物理化学的解析に基づく、阻害剤耐性機構の解明を目的としている。昨年度までに、FGFR1 V561M変異体の耐性機構の解明を目指して解析を行い、(1) PD173074に対する親和性が顕著に低下すること、(2) そのメカニズムが単なる変異部位周辺の立体障害だけではなく、変異に伴うグリシンリッチループの構造変化に起因する、グリシンリッチループとPD173074のtert-Butylとの間の立体障害も関与することが示された。しかし、PD173074以外の阻害剤 (Ponatinib、Dovitinib、BGJ-398など)に対する耐性機構について不明であった。そこで、本年度は、阻害剤とFGFR1との相互作用について、表面プラズモン共鳴測定へ向けた試料調製およびストップトフロー蛍光による速度論的解析を試みた。 最初に、表面プラズモン共鳴測定へ向けて、GST融合FGFR1の調製を試みた。しかし、キナーゼの大腸菌に対する毒性のために、遺伝子作成自体が困難であった。そこで、表面プラズモン共鳴測定を断念し、ストップトフロー蛍光測定を行うこととした。測定は5℃と25℃で行った。25℃でDovitinibおよびPonatinibについて測定したところ、1相性の結合速度に従うことが確認された。次に5℃で測定したところ、Ponatinibにおいて2相性の結合速度を示すことが確認された。BGJ-398、PD173074についても測定を行ったところ、同様に2相性の反応速度を示した。次に、薬剤耐性変異体についても解析をおこなったところ、遅い相の速度定数と阻害剤耐性の間に相関が見出された。
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