研究課題/領域番号 |
15K06979
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
池谷 鉄兵 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (30457840)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | NMR / 立体構造計算 / Bayes推定 |
研究実績の概要 |
ベイズ推定を用いた立体構造計算手法の開発では,本手法を生きた大腸菌細胞の蛋白質構造決定に適用し,これまでよりも遥かに少ない細胞内蛋白質濃度試料においても極めて高精度に立体構造決定が可能なことを示した.我々は,2009年に世界で初めて生きた細胞中での蛋白質構造決定に成功し,専門誌に報告している.本手法は,この従来法に,信号再構成,自動信号帰属,蛋白質立体構造計算の3つの過程で,改良を行い,以前の手法と比べて,細胞内濃度が1/10程度であっても,立体構造決定が可能であることを示した.信号再構成法では,従来のmaximum entropy法の改良版であるquantiative maximum entropy (QME)を適用し,自動解析にはCYANAプログラムに新たに実装したFLYAアルゴリズムを,構造最適化計算にBayes推定を用いた新規手法(CYBAY)を応用することで本成果を達成した.この成果は,学術専門誌 Sci. Rep. 6, 38312 (2016)に報告した. 常磁性効果を利用したPseudo-contact shift (PCS)を用いた蛋白質立体構造解析では,細胞内の還元環境下においても安定してランタノイド金属を保持することのできるヨードアセトアミド型 DOTA-M8タグの合成に成功した.また,ユビキチン蛋白質にDOTA-M8タグを結合させ,ヒト培養細胞内に導入したところ,細胞内においても安定してPCSを観測することに成功した.PCSデータの解析アルゴリズムをCYANAに実装し,解析結果を学術専門誌 J. Biomol. NMR 66, 99-110 (2016)に報告した. また,大腸菌内のヒストン-like蛋白質HUのNMR滴定実験を行い,HUのDNAとの結合機構を明らかにした成果をBB Reports 8, 318-324 (2016)に報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベイズ推定を用いた立体構造計算手法の開発では,開発した手法を実際のin-cell NMR 立体構造計算に適用し,従来よりも低濃度試料においても高精度の構造決定が可能であることを示すことができた.本成果は,昨年,学術専門誌 Sci. Rep. 6, 38312 (2016)に報告しており,順調に研究成果につながっている.また,昆虫の培養細胞Sf9中の蛋白質立体構造決定についても,現在順調に構造解析が進んでおり,学術専門誌への投稿準備を進めている. 立体高構造計算に有用な常磁性効果を用いた構造解析は,DOTA-M8ランタノイド金属結合タグの合成と,ヒト培養細胞内でのPCSの観測と,PCSデータ解析プログラムの開発に成功し,学術専門誌 J. Biomol. NMR 66, 99-110 (2016)に発表した.常磁性効果を立体構造解析に適用する課題についても順調に研究成果につながっている.PCSをさらに効率的に解析するアルゴリズム開発にもすでに成功しており,現在本手法の有効性を検証中である.この成果についても,今年度内の学術雑誌への投稿も期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
ベイズ推定を用いた立体構造計算は,NMRのNOE(Nuclear Overhauser Effect)データに適用することでこれまでの手法より遙かに高精度に構造決定可能なことを示せているため,現在,常磁性緩和効果の1つである,paramagnetic relaxation enhancement (PRE)データに本手法を適用できるように,CYANAソフトウェアへのプログラムの実装を進めている.もう一つの常磁性緩和効果であるpseudo-contact shift (PCS)については,立体構造と実験データを用いて,PCSの磁化率テンソルを計算するアルゴリズムの実装には成功している.現在,本手法の有効性を複数のシミュレーションデータと実データで検証しており,今年度はこれらの成果を学術誌に公開することを目指す. アルゴリズムの高速化については,共同研究により諏訪・藤堂法の実装を進めている.本課題についても,今年度中の実装を目指す.
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