研究課題/領域番号 |
15K06981
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
井原 義人 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70263241)
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研究分担者 |
井内 陽子 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (20316087)
池崎 みどり 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (40549747)
南方 志帆 和歌山県立医科大学, 医学部, 特別研究員 (90508574)
眞鍋 史乃 国立研究開発法人理化学研究所, 主任研究員研究室等, 専任研究員 (60300901)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖タンパク質 / C-マンノシル化 / 細胞接着分子 / E-カドヘリン |
研究実績の概要 |
C-マンノシル(C-Man)化は、細胞外マトリックスに存在するThrombospondin Type I repeat (TSR)スーパーファミリーやサイトカインファミリーなどのタンパク質の糖付加修飾であり、近年C-Man化を受ける新たなタンパク質の報告が続いている。C-Man化の機能については、修飾分子の分泌制御への関与が知られているが、生体における生理的役割はいまだ不明な点が多い。本研究では、我々が発見した、C-Man化ペプチドによる上皮系細胞の細胞間接着やアドヘレンス・ジャンクション構造形成の抑制と、E-カドヘリン分子の発現レベル抑制の知見をもとに、C-Man化ペプチドの新たな生理作用の分子機構に関する解析を進める。これまでの研究で、肺上皮由来A549細胞の系において、C-Man化ペプチドによるE-カドヘリン発現の抑制が観察されたが、その分子機構としてE-カドヘリンの遺伝子転写制御や、E-カドヘリンのタンパク質分解あるいはターンオーバーの関与については否定的なデータが得られ、異なる分子機構の存在が強く示唆された。細胞におけるC-Man化ペプチドの結合標的タンパク質の解析の結果、Hsc70、ミオシン-1c、α-アクチニン-4が候補分子として同定された。これらのC-Man化ペプチドの結合分子が、C-Man化ペプチドによるE-カドヘリン発現抑制の制御にいかに関わるのかその分子機構を明らかにする。また、本研究は上皮細胞接着異常が関わるがん細胞の転移・浸潤などの病態に関するC-Man化糖修飾の生理的役割の解析へと発展させることで、C-Man化糖タンパク質あるいは生理活性糖ペプチドとしてのC-Man化ペプチドがもつ新たな上皮細胞接着制御機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は、(1)肺上皮系A549細胞におけるC-Man化ペプチド結合標的分子の探索と同定を進めた。ビオチン化したC-Man化ペプチド(C-Man-Trp-Ser-Pro-Trp)をプローブとし、アガロースビーズ/カラムなどを用いる手法によるタンパク質精製を試み、3つの候補タンパク質を見出し、これらの標的タンパク質のマスフィンガープリンティングによる解析を進めたところ、熱ショックタンパク質のHsc70, ミオシン-1c, α-アクチニン-4が同定された。(2) C-Man化ペプチドの、上皮系細胞間接着への影響(E-カドヘリン発現量の減少とアドヘレンス・ジャンクション構造の形成阻害)について検討した。C-Man化ペプチドの影響としてE-カドヘリンのタンパク質レベルの減少は見られたものの、転写レベルに変化が見られなかったことから、細胞内のタンパク質分解系(リソソーム、プロテアソーム)の関与について、種々のタンパク質分解阻害剤の作用を解析した。リソソーム(阻害剤:バフィロマイシンA1、コンカナマイシンA、クロロキン)あるいはプロテアソーム(阻害剤:ラクタシスチン、MG132)の機能を抑制した条件で、C-Man化ペプチドによるE-カドヘリン発現減少への影響について解析したところ、いずれの条件でもE-カドヘリンの発現減少を抑制することはできなかった。このことから、E-カドヘリンの細胞内分解機構による関与は否定された。一方、組織内可視化A549-GFP細胞を用いたIn vivo細胞転移・浸潤モデルによるC-Man化ペプチド機能の解析は、遺伝子発現ベクターの準備や細胞株の調整などに若干の遅れが生じ、年度内での遂行に間に合わなかった
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究の結果、リソソームあるいはプロテアソームの機能を抑制した条件で、C-Man化ペプチドによるE-カドヘリン発現減少への影響が認められなかったことから、E-カドヘリンの細胞内分解機構による関与は否定された。そこで、平成29年度はC-Man化ペプチドによるE-カドヘリン発現減少の分子機構として、E-カドヘリンの翻訳レベルでの制御に焦点を合わせた解析を進める。具体的には、A549細胞において新規生合成されるタンパク質を[35S]-Met&Cysを用いた放射線標識あるいは非放射線標識でラベルし、パルスチェイスを行う。その後、標識細胞から免疫沈降により分離したE-カドヘリンの翻訳レベルを評価し、C-Man化ペプチドによる影響について解析する。さらに、前年度までの進捗状況に応じて、C-Man化ペプチド結合標的分子、特にミオシン1cとα-アクチニン-4に関する細胞接着制御の分子機構の解析を進める。また、C-Man転移酵素の候補遺伝子であるマウスDPY-19L1-4遺伝子を高発現あるいは低発現するA549細胞の作製を行い、C-Man転移活性の検証と細胞間接着への影響について解析する。現時点で、DPY-19L1/L2遺伝子の発現ベクターを構築し、RNAiによる発現抑制系についても準備が進んでいる。さらに、C-Man化ペプチド化合物やTSRドメインの、細胞転移・浸潤に対する作用について組織内可視化A549-GFP細胞を作製し、In vivo細胞転移・浸潤モデルを用いて総合的に解析する。これらの解析結果を統合してタンパク質C-Man化が関わる新たな上皮細胞接着制御機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究計画では、組織内可視化A549-GFP細胞を作製しIn vivo細胞転移・浸潤モデルを用いて、各種C-Man化ペプチド化合物やTSRドメインの、細胞転移・浸潤に対する作用について総合的に解析を進める予定であったが、遺伝子発現ベクターの準備や細胞株の調整などに若干の遅れが生じた。In vivo細胞転移・浸潤モデルの準備が年度内に間に合わなかったため、本実験の実施を次年度に持ち越すこととした。このため、分子生物学および実験動物の関連経費を中心に繰越が生じ次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では、A549-GFP細胞を作製し、各種C-Man化ペプチド化合物とともに、BALB/CPP2Acヌードマウスの静脈内あるいは腹腔内に移植し、6ヶ月にわたり観察、解析を行う。そこで、研究費の繰越分は、目的タンパク質の確認と同定のための生化学・免疫学的解析に関連する研究試薬や実験動物などの入手に使用する。 さらに、C-Man化ペプチドによる細胞接着の抑制状況おける、標的分子の細胞内動態に関する形態学的解析や、アドへレンスジャンクション形成関連分子と標的分子との関連についての生化学的解析に対しても、必要な研究試薬や材料入手のための研究費を充当する。
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