研究課題
造血幹細胞 (HSC) は炎症・免疫反応を制御する多彩な細胞集団に分化する能力を持つ。幹細胞の温存の為には、静止状態と未分化性を維持する事が重要で、そのために機能するタンパク質は転写レベルと翻訳後修飾によって量的調節を受けている。 Fbw7はこれまでに複数の転写因子を分解の基質としている事が報告されており、それらには HSCの転写制御能を持つものも含まれている。また多くの既知のFbw7の基質に共通する特徴の1つとして、 CDC4 phospho degron (CPD) と称される、主にGSK3キナーゼによるリン酸化修飾を受けたアミノ酸を含むコンセンサス配列をFbw7との結合部位としている事が挙げられる。我々は過去に Fbw7の新規標的因子として GATA3を同定したが、この基質もCPDを Fbw7との結合部位としていた。GATAは Type1-6で familyを形成する転写因子で、 その中でGATA3はGATA2とアミノ酸の相同性が最も高い。GATA3の CPD配列は GATA2でも相当位置に保存されており、さらに GATA2は HSCで機能する転写因子であることから、 GATA3のみならずGATA2もFbw7の標的となっているのではないかと考え、検討を進めた。その結果、Fbw7はGATA2に対してCPDを介して結合し、分解を誘導することが明らかになった。またCPDのリン酸化が一連のイベントに必要で、培養細胞では細胞周期の M期にCyclinB-CDK1が寄与することが示された。さらに Fbw7をコンディショナルノックアウトしたマウスの骨髄では、GATA2タンパク存在量の増大と未分化な細胞集団の存在率の低下が相関しており、Fbw7を介したGATA2タンパク量の適正化が損なわれると、HSCの分化抑制能に影響が及ぶ可能性が示唆された。
3: やや遅れている
・cMyb T572A KIマウスで発生する炎症の病態解析自然発生した皮膚炎症について、組織標本のHE染色および免疫組織染色像から病理所見を得た。その結果、腎臓、肺および脾臓など複数の組織で形質細胞の悪性腫瘍の浸潤またはB cells系の異常活性化が発生している可能性が認められた。cMybは B細胞の分化過程で機能している転写因子であるため、分化途中でのcMybタンパク量の増大が観察された異常を引き起こした可能性があり、さらに詳細な組織解析を進める。炎症惹起モデルでの解析は、マウスの増殖が予定よりも遅れた為、次年度以降で必要匹数を確保した上で行なう。
・cMyb T572A KIマウスで発生する炎症の病態解析自然発症炎症の病理像をさらに詳細に解析すると共に、炎症惹起モデルをcMyb T572A KIマウスで作製し、発生する炎症レベルおよび病理像、炎症細胞に由来する炎症関連因子の発現などを、コントロールと比較検討する。・Fbw7を介したGATA3分解のDUBによる抑制制御機構の解明GATA3の脱ユビキチン化酵素(DUB)としてはUSP21が既に報告されているが、我々は GATA3と結合する新規DUBの同定に成功した。今後は新規DUB候補の生理的役割をまずは細胞レベルで検証し、その結果を手がかりに個体レベルでの寄与を調べる。またこの候補因子が c-Mybおよび GATA2の DUBとしても機能する可能性を探る。さらに GATA3に対するDUB機能の調節メカニズムの解明にもせまる。
遺伝子改変マウスを用いた実験について、マウスの交配が予定よりも遅れた為、実験の一部に遅れが生じた。
次年度以降は必要な遺伝子型のマウス数が揃い次第、計画している実験を実施する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Curr. Cancer Drug Targets
巻: 16 ページ: 119-29
10.2174/1568009616666151112122231
J. Biol. Chem.
巻: 290 ページ: 10368-81
10.1074/jbc.M114.613018.