研究課題
SCF-Fbw7ユビキチンリガーゼは造血幹細胞やリンパ球等血球系細胞の分化増殖を制御する多種の転写因子を分解の標的としている。我々はこれまでに血球系細胞の増殖・分化に重要な転写因子であるGATA2,GATA3およびc-Mybが、特定部位のリン酸化がFbw7との結合の引き金となってユビキチン依存的分解を受けることを見いだし、Fbw7コンディショナルノックアウトマウスの解析により、それらの量的調節が血球細胞の正常な分化に重要であることを明らかにしてきた。本研究では炎症発生に伴う血球系細胞の機能制御における、Fbw7の基質分解を介した役割を明らかにする事を目的としている。Fbw7の基質リン酸化に依存的な分解機構の特性に注目し、Fbw7依存的なc-Mybの分解の生理的意義の解明には、c-MybだけがFbw7による分解に対して耐性となるc-Myb T572Aノックイン(KI) マウスの作製と、表現型の解析が有用と考えた。 KIマウスは通常飼育環境下で生育可能であることが確認されたが、ホモ変異型では長期飼育によって肺、肝臓に炎症反応によって惹起されたと考えられるリンパ球浸潤による臓器障害が高頻度に認められた。組織免疫染色(IHC)解析により、この浸潤部には B 細胞を中心としたリンパ球の集積とともにc-Mybを発現する細胞が確認され、さらにc-Myb発現は集積細胞集団の増殖に寄与している可能性も見出された。一方LPS投与による自然免疫感作モデルマウスではc-Myb発現亢進が腹腔内B細胞に認められ、これらは KI高齢マウスで認められた異所性のc-Myb発現細胞と共通性があることがわかってきた。このことから自然免疫が関与する炎症反応に、c-Mybが Fbw7による量的調節を受けて関与している可能性があり、次年度はさらに検証を重ねる予定である。
2: おおむね順調に進展している
モデル動物を用いた本実験により、 Fbw7による c-Mybタンパク質の量的制御が炎症シグナルに関連したリンパ球の挙動を制御する可能性を示唆するものであることが明らかにされつつある。またc-Mybが関わる炎症反応は、炎症惹起モデル実験より、自然免疫が関与する類いである可能性も示唆されている。これらの結果は c-Mybが炎症反応の惹起、進展において一定の役割を果たす因子であることを示すものでもある。c-Mybはリンパ球の分化成熟過程の調節因子であることはすでに明らかにされているが、炎症発生以後の機能に関しては不明の点が多く、本研究で得られつつある知見は新規性が高い。
炎症反応の惹起から終息の過程では、複数の因子の関与が経時的な推移を遂げており、c-Mybにおいても量的推移が起こることによって過剰な炎症症状を抑止していると考えられる。Fbw7を介した分解による量的調節がどのようなタイミングで発生しているのかを、今後明らかにする。さらにc-Mybの炎症反応における役割の詳細を明らかにするため、どのような上流因子からのシグナルを受けて活性化し、どのような下流因子に情報を受け渡して行くのかを明らかにしていく。また活性化シグナルは c-Mybの分解を抑制する機能も併せ持つ可能性があるため、この点の検証も行なう。自然免疫能の破綻は接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎や自己免疫疾患などの発症、悪化に関与することが知られており、c-Mybが介在するシグナルがこれらの疾患に寄与している可能性を、 KIマウスで疾患モデル動物を作成して検証したい。
遺伝子改変マウスを用いた実験について、マウスの交配が当初計画よりも遅れ、実験の一部に遅れが生じたため。
疾患モデル動物の作成も含めてマウス数を十分に確保しつつ、計画している実験を遂行する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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