ポリシアル酸による新しい細胞機能調節機構の分子基盤の解明

2016 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 15K06995
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 佐藤 ちひろ 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 准教授 (10343211)
• 研究期間 (年度): 2015-04-01 – 2018-03-31
• キーワード: シアル酸 / ポリシアル酸 / ポリシアル酸転移酵素 / 表面プラズモン共鳴法

研究実績の概要

脊椎動物脳には学習・記憶・社会性行動に深くかかわる酸性多糖"ポリシアル酸(polySia, PSA)"が存在する。我々はこれまでpolySiaがその機能を発揮する際、従来考えられてきた反接着性相互作用を持つ"反発性の場"をつくりだしているだけでなく、神経作用因子の保持および放出(提示)作用を持つ"誘因性の場"も提示することを世界に先駆けて明らかにしてきた。本研究では、我々が明らかにしてきたpolySiaの”誘因性の場”に着目し、神経作用因子の保持および放出メカニズムを分子レベルで詳細に解析することにより、その存在意義を細胞および個体で検証することを目的としている。今年度は分泌型NCAM安定発現発現細胞に対して、ポリシアル酸転移酵素STXおよびPST,統合失調症型STXを各種遺伝子導入し樹立したヒト安定発現株から精製したpolySia-NCAM鎖の構造を緩和酸加水分解-蛍光陰イオンクロマトグラフィー法をはじめとする化学的・免疫化学的手法により解析すると共に、BDNFをはじめとする一連の分子との相互作用を解析した。その結果、STXとPSTでは合成するポリシアル酸鎖が異なり、特にSTXではBDNFに結合性を、PSTではFGF2やWNT1に結合性を強く示すことが明らかになった。また、特にBDNFのポリシアル酸鎖に対する結合性は特徴的であり、BDNFの構造変化を促す作用が示唆された。一方、統合失調症型のSTXが合成するポリシアル酸鎖は質も量も損なわれており、分子結合性も低下することがあきらかになった。またNCAM上のN型糖鎖結合部位に変異をいれ、NCAM(N5Q6)-Fc, NCAM(Q5N6)-Fc, NCAM(N5N6)-Fc, NCAM(Q5Q6)-Fcを発現するプラスミドを構築し、各種ポリシアル酸転移酵素安定発現株に遺伝子導入し各種polySia-NCAMの精製を行い、解析に向けて試料を調製した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

計画通りに進行している。

今後の研究の推進方策

非常に興味深い結果が得られているが、この内容をさらに掘り下げるのには1年間で100万程度の金額では不可能である。博士課程後期で、学振の研究費を得ている学生の1年間の研究費と、20年ちかく研究を続けてある程度実績も挙げており、学生も育てている研究者が同じ程度の研究費であることに疑問を感じている。運営費交付金も不当に減らされており、個人の裁量で努力できる状態を越えている。

研究成果

• [雑誌論文] Diverse subcellular localizations of the insect CMP-sialic acid synthetases. (2017)
  • 著者名/発表者名: Wu, D., Fujita, A., Hamaguchi, K., Delannoy, P., Sato, C., and Kitajima, K.
  • 雑誌名: Glycobiology 巻: 4 ページ: 329-341
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Releasing Mechanism of Neurotrophic Factors via Polysialic Acid. (2017)
  • 著者名/発表者名: Sato, C.
  • 雑誌名: Vitamines and Hormones 巻: 104 ページ: 89-112
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Hsp70の酸性複合糖質結合活性の発見. 糖の意外な働き． (2017)
  • 著者名/発表者名: 原田陽一郎、佐藤ちひろ、北島健
  • 雑誌名: 化学と生物 巻: 55, ページ: 22-26
  • 査読あり
• [雑誌論文] Effects of intronic single nucleotide polymorphisms (iSNPs) of a polysialyltransferase, ST8SIA2 gene found in psychiatric disorders on its gene products. (2016)
  • 著者名/発表者名: Hane, M., Kitajima, K., and Sato, C.
  • 雑誌名: Biochem Biophys Res Commun. 巻: 478 ページ: 1123-1129
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Relationship between ST8SIA2, polysialic acid and its binding molecules, and psychiatric disorders. (2016)
  • 著者名/発表者名: Sato, C., Hane, M., and Kitajima, K.
  • 雑誌名: Biochim Biophys Acta. 巻: 1860 ページ: 1739-1752
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] The AMOR Arabinogalactan Sugar Chain Induces Pollen-Tube Competency to Respond to Ovular Guidance. (2016)
  • 著者名/発表者名: Mizukami, A.G., Inatsugi, R., Jiao, J., Kotake, T., Kuwata, K., Ootani, K., Okuda, S., Sankaranarayanan, S., Sato, Y., Maruyama, D., Iwai, H., Garénaux, E., Sato, C., Kitajima, K., Tsumuraya, Y., Mori, H., Yamaguchi, J., Itami, K., Sasaki, N., and Higashiyama, T.
  • 雑誌名: Curr Biol. 巻: 26 ページ: 1091-1097
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] 酸性糖鎖ポリシアル酸の新機能の発見とその応用展開. (2017)
  • 著者名/発表者名: 佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 日本農芸化学会2017年度京都大会
  • 発表場所: 京都
  • 年月日: 2017-03-17
  • 招待講演
• [学会発表] 哺乳動物細胞におけるポリシアル酸転移酵素の活性発現制御機構の解析. (2017)
  • 著者名/発表者名: 石原幸奈、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ．
  • 学会等名: 日本農芸化学会2017年度京都大会
  • 発表場所: 京都
  • 年月日: 2017-03-17
• [学会発表] ポリシアル酸修飾された神経細胞接着分子か持つ反接着機能の新たな評価法の確立. (2016)
  • 著者名/発表者名: 森愛理、新美百希、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ .
  • 学会等名: 第13回若手の力フォーラム
  • 発表場所: 岐阜
  • 年月日: 2016-11-26
• [学会発表] 哺乳類細胞におけるポリシアル酸転移酵素の性質の解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 石原幸奈、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 第13回若手の力フォーラム
  • 発表場所: 岐阜
  • 年月日: 2016-11-26
• [学会発表] α2,8シアル酸転移酵素(ST8SIA)が生合成するシアロ糖鎖構の免疫化学的解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 津田佳奈、高橋映莉乃、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 第13回若手の力フォーラム
  • 発表場所: 岐阜
  • 年月日: 2016-11-26
• [学会発表] 抗精神疾患薬投与条件下におけるヒト神経細胞およびマウス脳のポリシアル酸構の変動解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 阿部智佳羅、西村紗希、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 第13回若手の力フォーラム
  • 発表場所: 岐阜
  • 年月日: 2016-11-26
• [学会発表] Regulation of quality and quantity of polysialic acid by ST8SIA2/STX: Lessons from its SNPs reported in psychiatric diseases. (2016)
  • 著者名/発表者名: Chihiro Sato.
  • 学会等名: The Sialoglyco 2016 conference
  • 発表場所: Santa Barbara, USA
  • 年月日: 2016-11-14 – 2016-11-17
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Establishment of a new method for evaluating the repulsive function of polySia-NCAM. (2016)
  • 著者名/発表者名: Airi Mori, Yuki Niimi, Masaya Hane, Ken Kitajima, and Chihiro Sato.
  • 学会等名: The Sialoglyco 2016 conference
  • 発表場所: Santa Barbara, USA
  • 年月日: 2016-11-14 – 2016-11-17
• [学会発表] ミクログリアが放出するエキソソームに含まれるシアリダーゼの同定とその機能解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 佐藤ちひろ
  • 学会等名: 第89回日本生化学会大会シンポジウム
  • 発表場所: 仙台
  • 年月日: 2016-09-25 – 2016-09-27
  • 招待講演
• [学会発表] 精神疾患患者に見出されたST8SIA2/STXのiSNPおよびrSNPの生化学的解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 羽根正弥、早川敏之、北島健、佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 第89回日本生化学会大会
  • 発表場所: 仙台
  • 年月日: 2016-09-25 – 2016-09-27
• [学会発表] 抗α2,8-結合シアル酸認識抗体を用いたST8SIAによって生合成される細胞表面シアル酸エピトープの解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 津田佳奈、高橋映莉乃、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 第89回日本生化学会大会
  • 発表場所: 仙台
  • 年月日: 2016-09-25 – 2016-09-27
• [学会発表] 抗精神疾患薬投与条件下におけるヒト神経細胞およびマウス脳のポリシアル酸構造の変動解析. (2016)
  • 著者名/発表者名: 阿部智佳羅、西村紗希、羽根正弥、北島健、佐藤ちひろ
  • 学会等名: 第35回日本糖質学会年会
  • 発表場所: 高知
  • 年月日: 2016-09-01 – 2016-09-03
• [学会発表] 統合失調症患者に見出されたST8SIA2/STX のrSNPが及ぼす影響とそのメカニズムの解析 (2016)
  • 著者名/発表者名: 羽根正弥、早川敏之、北島健、佐藤ちひろ
  • 学会等名: 第35回日本糖質学会年会
  • 発表場所: 高知
  • 年月日: 2016-09-01 – 2016-09-03
• [学会発表] 神経細胞接着分子のポリシアル酸修飾の新しい制御機構の存在. (2016)
  • 著者名/発表者名: 森愛理、内村健治、北島健、佐藤ちひろ.
  • 学会等名: 第80回生化学会中部支部例会・シンポジウム
  • 発表場所: 津、三重
  • 年月日: 2016-05-21
• [学会発表] Polysialic acid as an attractant for bioactive compounds. (2016)
  • 著者名/発表者名: Chihiro Sato.
  • 学会等名: Frontiers in Sialic Acid Research Conference: From Structural Diversity to Functional Glycobiology
  • 発表場所: Bad Lauterberg, Germany.
  • 年月日: 2016-04-23 – 2016-04-25
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Effects of SNPs genetic variations in the ST8SIA2 gene from the psychiatric disorder patients on the expression and functions of polysialic acid. (2016)
  • 著者名/発表者名: Chihiro Sato
  • 学会等名: The Netherlands Joint Seminar 2016
  • 発表場所: Leiden, The Netherlands.
  • 年月日: 2016-04-19 – 2016-04-22
  • 国際学会 / 招待講演