研究課題/領域番号 |
15K07000
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 泰憲 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30467659)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小胞体 / 膜挿入装置 / ヘアピン型膜タンパク質 / テイルアンカー型タンパク質 / 膜変形タンパク質 |
研究実績の概要 |
分泌経路上の膜タンパク質はまず小胞体膜に挿入され、その後適切な膜系へと輸送されることから、膜タンパク質の小胞体膜挿入機構を理解することは大変重要な課題である。膜タンパク質を小胞体膜に挿入する主要な経路として膜透過装置トランスロコンがあるが、トランスロコンでは膜挿入できないトポロジーを持つ膜タンパク質も多数存在し、その分子メカニズムは不明な点が多い。本研究では膜タンパク質の「翻訳速度」に着目し、速度論的な制約からトランスロコンを経由できない膜タンパク質の膜挿入を解析することで、未知の小胞体膜挿入機構を解明することを目的とする。さらに、速度論的制約を受ける主要な膜タンパク質が小胞体膜変形タンパク質であることに着目し、膜挿入装置の観点から小胞体膜形態の生理的意義についての新たな概念の提示を試みる。 本年度は、速度論的制約を受けるヘアピン型膜タンパク質をウサギ網状赤血球抽出液を用いてin vitro翻訳し、これと細胞膜を透過性処理したセミインタクトHeLa細胞を混合して膜挿入を進行させる条件を決定し、蛍光顕微鏡で膜挿入を定量、評価できる試験管内再構成アッセイ系を開発した。ヘアピン型膜タンパク質に結合する新規小胞体膜タンパク質を同定した。この新規小胞体膜タンパク質は細胞質領域にCoiled-coilドメインを持ち、4つのメンバーからなるファミリーを形成していた。ファミリーメンバーの1つはテイルアンカー型タンパク質(翻訳の物理的な制約によりトランスロコンを経由できない膜タンパク質)の小胞体膜挿入装置CAML-WRB複合体に結合し、膜挿入を制御していた。これらのことから、翻訳の速度論的な制約による非トランスロコン型膜挿入と物理的な制約による非トランスロコン型膜挿入は互いに密接に関係している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、速度論的制約下にあるヘアピン型膜タンパク質の膜挿入を定量、評価できる試験管内再構成アッセイ系を開発した。さらに、ヘアピン型膜タンパク質に結合する新規小胞体膜タンパク質を同定した。今後、この新規小胞体膜タンパク質の活性を試験管内再構成アッセイ系で解析することで、膜挿入装置の分子実体を同定できると考えている。また、この新規小胞体膜タンパク質のファミリーメンバーの解析から、翻訳の速度論的な制約による非トランスロコン型膜挿入と物理的な制約による非トランスロコン型膜挿入が互いに関係していることを示唆する結果を得た。このように未知の膜挿入装置の解明に繋がるいくつかの知見が得られたことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
膜挿入の試験管内再構成アッセイ系を駆使して、ヘアピン型膜タンパク質の小胞体膜挿入を制御するタンパク質複合体を生化学的に精製、同定し、未知の小胞体膜挿入装置の分子実体を明らかにする。同定した膜挿入装置および、それに基質となるヘアピン型膜タンパク質が結合した状態の複合体についてそれぞれ結晶を作製し、構造解析を行う。得られた構造とタンパク質間相互作用のインターフェースに基づき、複合体形成を増強または減弱する膜挿入装置の変異体、複合体形成を制御するペプチド等を作製する。これにより、膜挿入反応を人工的に制御するツールを構築する。 クライオ電子線トモグラフィーにより膜挿入装置複合体を脂質膜構造を含めて解析する。また、作製した複合体形成を制御する反応制御分子の変異体やペプチドを加え、膜埋め込み反応の各ステップ(各遷移状態)を阻害または増強した状態を人工的に作り出し、この状態を同様にクライオ電子線トモグラフィーで解析する。得られた脂質膜を含む3次元解析像に結晶構造をフィッティングすることで、膜挿入装置の作動と脂質膜の構造変化の機能関係を明らかにする。得られた結果を統合し、速度論的制約下にある膜タンパク質を小胞体膜に配向挿入する原理を明らかにする。
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