分泌経路上の膜タンパク質はまず小胞体膜に挿入され、その後適切な膜系へと輸送されることから、小胞体膜挿入機構を理解することは大変重要な課題である。主要な膜挿入経路として膜透過装置トランスロコンによる翻訳と共役した経路がある。本研究では、膜タンパク質の「翻訳速度」に着目し、速度論的な制約からトランスロコンを経由できない膜タンパク質の膜挿入を解析することで、未知の小胞体膜挿入機構の解明を試みた。その結果、前年度までに、ペルオキシソーム形成因子PEX19が速度論的制約下にある膜タンパク質の新生鎖に結合し、ペルオキシソーム形成因子PEX3と協力して膜タンパク質を翻訳後に小胞体膜へ挿入することを明らかにした。本年度は、PEX19-PEX3システムについてさらに解析を行い、以下の結果を得た。 PEX19は、reticulon homology domainを持つ小胞体膜変形タンパク質ファミリーの新生鎖を選択的に認識し、膜挿入していた。膜挿入されなかった新生鎖はプロテアソームで速やかに分解されていた。PEX19以外に新生鎖に結合するタンパク質として、トランスロコン経路で働くシグナル認識粒子のサブユニットSRP54及び、膜タンパク質の分解に関与するシャペロンBat3を同定した。 以上の結果から、小胞体膜変形タンパク質の新生鎖はBat3に認識されて膜挿入か分解かの選別が行われ、その後、PEX19に受け渡されてPEX3により小胞体膜へ挿入されると考えられた。このようなPEX19-PEX3システムによる翻訳後膜挿入経路は、翻訳の速度論的な制約のためにトランスロコンを経由することに失敗した小胞体膜変形タンパク質を膜挿入するためのバックアップ経路として存在していると考えられた。PEX19-PEX3システムによる膜挿入を作用点として、小胞体膜変形とペルオキシソーム生合成が協調している可能性が示唆された。
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