研究課題/領域番号 |
15K07003
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
佐伯 和彦 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40201511)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 根粒共生 / 転写因子 / 菌体外分泌装置 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
本研究では、根粒菌3型分泌系の新たなエフェクター遺伝子の同定と人工のエフェクター導入システムの構築を目的とした。 新たなエフェクター遺伝子の同定のために、まず、 ミヤコグサ根粒菌Mesorhizobium lotiの3型分泌系転写因子TtsIの結合配列をChIP-seq法により同定し、結合配列下流に存在する新規3型分泌系遺伝子候補の抽出を行った。次に、抽出された遺伝子候補の破壊株を作製して分泌活性の評価を行い、必要に応じて相補実験を行うことにより、新たなエフェクター遺伝子の同定を進行させた。並行して、候補遺伝子の破壊実験を効率的に進めるために、Streptococcus pyogenes由来のCRISPR/Cas9に基づくゲノム編集技術を根粒菌と近縁のαプロテオバクテリアに適用するための新規なプラスミド・セットの開発を進行させた。 人工のエフェクター導入システムの構築の前提条件として、まず、菌体外分泌および宿主細胞内へのタンパク質注入に必要最小限の分泌シグナルの同定を行うために、3型エフェクタータンパク質のN末端側とレポータータンパク質との融合タンパク質遺伝子を構築して迅速な活性測定系の構築を行っている。レポーターとしては、オキヒメヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)由来のルシフェラーゼをタンパク質工学的に改良したNanoLucを用いた。NanoLucは細菌や植物には含まれない酵素として低いバックグラウンドで高感度な活性測定が可能である。NopXなど合計5種の3型エフェクターとNanoLucの融合遺伝子を含むプラスミド5種を作製、ミヤコグサ根粒菌野生株と3型分泌系破壊株にを導入後、3型分泌系の発現を誘導したところ、菌体外液にルシフェラーゼの活性を確認できたが、99%以上の活性が菌体内に留まっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新たなエフェクター遺伝子の同定:平成28年度に引き続き、hexaHis-TtsIを発現するミヤコグサ根粒菌株をホルムアルデヒド処理後、菌体を破砕、Niゲルに吸着したDNAを回収して配列決定を行うChIP-seq実験を行った。平成29年度に実施した条件では、既知の3型分泌系遺伝子上流領域以外の配列が検出されず、新規なエフェクター遺伝子の候補は得られおらず、当初の目的は果たされていない。一方、新規遺伝子候補の破壊実験を効率的に進めるために、CRISPR/Cas9系をαプロテオバクテリアに適用する系として、任意の20塩基対のDNA配列に4塩基ずつの接着末端を付加してcrRNAとしてCas9とtracrRNAとともに安定かつ効率よく発現させるベクターと、発現ベクターと一時的に共存してこれを特異的に分断・破壊する除去ベクターの開発を行った。このゲノム編集系を汎用性を持つベクター・セットとして確立すれば、仮に、新規なエフェクター遺伝子が同定できない場合も本研究の当初は予定していない成果となると考えている。 人工のエフェクター導入システムの構築:概要に記載の通り、3型エフェクタータンパク質のN末端側とNanoLucルシフェラーゼとの融合タンパク質は菌体外分泌はされたものの、全発現産物の1%以下であり、ほとんどが菌体内に保持された。これは、単量体で高い三次構造的安定性を持つNanoLuc部分が3型分泌装置内を通過するのに必要な構造を持たない状態をとり難いためであると推測された。レポーターの変更などを行わない限り、当初予定の迅速な活性測定系の構築には至らないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
新たなエフェクター遺伝子の同定:ChIP-seq解析において、3型遺伝子誘導条件、ホルムアルデヒド処理条件等をさらに検討して、新規配列の同定を試みる。また、他の根粒菌でのbioinfomatics解析によって予測されているエフェクター候補ホモローグについて、遺伝子破壊を行って表現型を解析する。このためにも、CRISPR/Cas9系をαプロテオバクテリア全般に適用可能な汎用的ベクター・セットとして確立して用いる。 人工のエフェクター導入システムの構築:レポーターとしてNanoLucよりも構造的可塑性が高いと思われる大腸菌アルカリ性フォスファターゼPhoAの成熟タンパク質部分の使用を試みる。ただし、NanoLucが単量体で機能する酵素であるのに対し、PhoAは2量体で機能する酵素であるため、融合する3型エフェクタータンパク質のN末端側との組み合わせの最適化に手間取る可能性がある。また、根粒菌自身もフォスファターゼ活性を示すため、バックグラウンド活性が高くなる可能性がある。ただし、大腸菌PhoAに対する抗体は各種市販されているため、根粒菌のアルカリ性フォスファターゼと結合しない抗体を入手できれば、菌体外分泌物と菌体内残留物をそれぞれ定量化することが可能となるはずであり、活性測定系として精密な評価が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2つの達成目的、新たなエフェクター遺伝子の同定と人工のエフェクター導入システムの構築、両者において、技術的な問題などにより進行が予定より遅延した。 新たなエフェクター遺伝子の同定においては、ChIP-seqで得られた破壊遺伝子候補が少なく、破壊と評価実験に要する費用が残存した。ChIP段階での条件件等に手間取ったため、seq部分の支出が予定よりも少なくなった。一方、人工のエフェクター導入システムの構築においては、NanoLucとの融合タンパク質の大半が細胞内に滞留するという状態で、これも、更なる解析にまで進まず、評価を総合的に行う段階に至らなかったため費用が残存した。 今後、ChIP-seq実験の最適化を行うために、各種の生化学試薬とシーケンス試薬を用いる。また、CRISPR/Cas9を用いたαプロテオバクテリアに汎用性を持つゲノム編集系を構築する。並行して、3型分泌シグナルの同定用に、大腸菌PhoAをレポーターとする分泌活性測定系の構築を行う。
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