本研究では、ミトコンドリア内膜に局在する輸送体タンパク質ミトコンドリアキャリアとミトコンドリアキャリアと相互作用することが知られている脂質カルジオリピンをモデル膜タンパク質ー脂質系として用い、膜タンパク質の機能および構造に対する脂質の役割を明らかにすることを目的として研究を行った。 本研究では、まず酵母とマラリア原虫のミトコンドリアを対象に輸送活性に対するカルジオリピンの影響を解析した。その結果、リポソーム中のカルジオリピンの濃度を変えるとミトコンドリアキャリアの輸送活性が変化することが明らかになった。ミトコンドリアキャリアの多くは、ミトコンドリア内膜に局在するが、別の膜系に局在しているものも存在する。ミトコンドリア内膜はおおよそ15%前後のカルジオリピンを含んでおり、ミトコンドリア内膜に局在するミトコンドリアキャリアは15%のカルジオリピンを含む条件で活性が高まったのに対し、それ以外の膜系に局在するものではそのような活性の上昇は観察されなかった。これらの結果は、ミトコンドリアキャリアファミリータンパク質が進化の過程で様々な膜系に進出していくと同時に、それらの膜系の脂質環境で効率的に働くように最適化されていったことによるのかもしれない。最終年度は、ミトコンドリア内膜にカルジオリピンを含まない生物のミトコンドリアキャリアを集め、内膜にカルジオリピンを含む生物のものと輸送活性におけるカルジオリピン依存性を比較解析した。その結果、カルジオリピンを持つタイプの生物のミトコンドリア内膜に局在するミトコンドリアキャリアはカルジオリピン存在下で活性が上昇するのに対し、カルジオリピンを含まないタイプの生物のミトコンドリア内膜に局在するミトコンドリアキャリアは輸送活性に対するカルジオリピンの影響は観察されなかった。これらの結果は、論文にまとめており、一部の結果については現在投稿中である。
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