研究課題/領域番号 |
15K07009
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
関 政幸 東北医科薬科大学, 薬学部, 教授 (70202140)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | MCMヘリカーゼ / DNAトポイソメラーゼI / Werner症候群原因遺伝子産物 / WRNIP1 / RAD52 / カンプトテシン / DNA複製フォーク / 過酸化水素水 |
研究実績の概要 |
本研究では、真核細胞の DNA 複製フォーク進行における「"二本鎖DNAの巻き戻し (MCMヘリカーゼによる反応)" と "フォーク前方の torsional stress の解消 (DNAトポイソメラーゼI [TopI]による反応)" を連動させる制御機構」の解明を目的とする。具体的には、早老症Werner症候群原因遺伝子産物WRNとその相互作用因子に着目して研究を進めた。WRNと相互作用するタンパク質としてDNAトポイソメラーゼI, Werner interacting protein 1(WRNIP1)および RAD52(相同組換修復に関わる)がある。 WRN, WRNIP1, RAD52それぞれの遺伝子破壊株 (KO株)がカンプトテシン(DNAトポイソメラーゼIの阻害剤でかつ抗がん剤)に感受性になることが知られている。 本年度は、これまで未解析であったWRNIP1, RAD52の機能の関連性を調べることにした。まず、WRNIP1過剰発現ヒト細胞を用いて免疫沈降法を行い、WRNIP1とRAD52の相互作用を調べたところ、両者が結合することがわかった。続いてWRNIP1/RAD52二重破壊株 (DKO)を作成し、細胞増殖能を調べると、DKOでは若干の細胞増殖の低下が観察され、WRNIP1とRAD52が正常な細胞増殖に必要であることが示唆された。予想外に DKO株はカンプトテシンに弱い感受性しか示さなかった。一方、過酸化水素に対する感受性を解析したところ、RAD52 KO株は野生株に比べ過酸化水素に対して感受性を示すが、DKO株ではその感受性が若干抑制されていた。このことは、過酸化水素による傷害の処理においてWRNIP1はRAD52の上流で機能し、両者が欠損すると、他の修復ルートが作動する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度から引き続き、DNAトポイソメラーゼI (TopI)遺伝子破壊 (KO) 株の作製にチャレンジした。KO株は致死であることが予想されたため、TopI遺伝子の発現を on/off 可能にするコンストラクトを作製し、そのコンストラクトを導入したニワトリDT40細胞を親株に、TopI遺伝子の KO を試みた。しかしながら、TopIの発現バランスが細胞の生存に重要なためなのか、どうしても目的(交付申請時の)の TopI条件致死株候補を得ることができなかった。約2年の労力をかけたが、これ以上 作製できない株に依存した実験計画は中止せざるを得なくなった。 一方、「研究実績」の項で記載したが、複製フォークで TopIと相互作用する WRNおよび WRN関連タンパク質に着目した研究は、思いがけないかつ重要な知見をDNA複製フォーク研究にもたらしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
TopI 条件致死 KO 株の作製は断念し、WRN(WRN KO 株はカンプトテシンに感受性を示すため、本課題の当初実験計画とは若干ずれるが、「抗がん剤カンプトテシンと複製フォーク」という本課題の目的には含まれる)およびWRN関連タンパク質群の複製フォークにおける機能を解明することで、本課題の目標に迫ることにした。 現在までに、損傷トレランス機構の1つであるtranslesion synthesis(TLS)において、DNA複製ポリメラーゼPolδに代わり複製を進行させる損傷乗り越えポリメラーゼPolηとWRNIP1(WRNと結合するタンパク質)が相互作用することを報告している。さらに、ニワトリDT40 WRNIP1/Polη二重破壊 (DKO)株の解析から、WRNIP1が UV照射時に誘導されるTLSにおいてPolηの上流で機能することが示唆された。さらにDKO株では、error-free typeのポリメラーゼ(候補としてDNAポリメラーゼ活性も合わせもつDNAプライマーゼPrimPolが考えられる)によりUVによる損傷を乗り越えることを示唆する結果がえられた。ここで、WRNIP1とPrimPolの共発現細胞で免疫沈降法により結合を調べたところ、少量ながら両者の相互作用が観察された。 以上の経緯をふまえ、最終年度はWRNIP1とPrimPolの機能の関連性の解明にフォーカスした解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に消耗品として購入した物品(プラスチック製品、細胞培養用の各種試薬類、分子生物学用キット類など)を平成28年度中も継続して使用できたため、平成28年度の物品費は初年度に比べ低くなった。しかし、最終年度分の在庫はなくなったので、最終年度には新たに必要な物品を購入する予定である。一方、「使用計画」にも述べたように平成28年度末になって CO2インキュベーターが不調となったため、早急に新しいものを購入する予定である(実は見積もりもとり終え、既に発注済み)。このような個々の研究事情に対し、柔軟な対応を可能にしてくれる「基金」という制度に大いに感謝している。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞培養に必須な CO2インキュベータの温度調節が不調であること、さらにCO2を供給するシステムの不調などから、100万円程度を急遽 物品費(備品)として新しいCO2インキュベータの購入にあてたい。残額を、研究推進のための消耗品代、および論文発表のための諸費用、学会発表のための旅費にあてたい。
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