本研究では、真核細胞の DNA複製フォーク進行における「"二本鎖DNA巻き戻し (MCMヘリカーゼによる反応)" と "フォーク前方の trosional stress の解消 (DNAトポイソメラーゼI [TopI]による反応)" を連動させる制御機構」の解明を目的とした。具体的には、ニワトリDT40細胞株を用いた条件致死 TopI 破壊株の作製とその解析、並びに TopIと相互作用する WRN(早老症ウェルナー症候群原因遺伝子産物)及びWRNIP1(WRN相互作用タンパク質)と Rad52(組換え酵素:これも WRNに相互作用する)の複製フォーク上での役割解明を目指した。 まず、TopI破壊株の作製は予想外に難航したため、上記後者の目標達成に注力せざるをえなかった。後者の課題の中で、未解析であった WRNIP1と Rad52との機能的な関連を調べるため、WRNIP1を過剰発現させたヒト細胞で、免疫沈降実験を行い WRNIP1とRad52が物理的に相互作用することを示した。続いて、ニワトリDT40細胞を親株としたWRNIP1/RAD52二重破壊株 (DKO)を作製した。DKO株は、若干の増殖能低下を示すため、WRNIP1とRAD52 の両方の存在が、正常な細胞増殖に必要なことが示唆された。過酸化水素に対する感受性試験の過程で、RAD52単独破壊株が有する過酸化水素感受性が、DKOでは消失すること、すなわち「過酸化水素による DNA傷害の処理において、WRNIP1は Rad52の上流で機能していること」が示された。さらに、WRNIP1の複製フォークにおける機能解析を行い、WRNIP1がtranslesion synthesis (TLS)において損傷乗越えポリメラーゼPolηの上流で機能することも示唆できた。
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