研究課題
本研究では、新規のガス応答性因子として同定した膜タンパク質タンパク質PGRMC1の構造的機能制御の解明を目的とする。X線結晶構造解析により、PGRMC1はチロシン残基のヘム配位によって、突出したヘム同士が重なり合った特異なヘム重合体構造を形成することを見出した。PGRMC1はアポ体ではモノマー構造で存在するが、ヘムと結合することにより2量体化し、生体内ガスCOは、PGRMC1上のヘム同士の重合が解離してPGRMC1の機能が消失することを見出している。さらに、PGRMC1はヘムにより重合化して、がん増殖に関わるEGFRと会合してがん増殖シグナルを増強する。また、重合化したPGRMC1は薬物代謝酵素シトクロムP450と会合して抗がん剤の分解活性を増強して薬剤耐性を促進することが分った。このように、PGRMC1はがん細胞内のヘム濃度に応答して重合化することにより活性化し、がん細胞の増殖促進や抗がん剤耐性に関与するという、ダイナミックな構造変換によって機能することを明らかとした(Nature Commun 2017)。このようなPGRMC1の構造的知見を基に、PGRMC1に結合する未知の化合物の選定を進め、漢方含まれるいくつかの天然有機化合物がPGRMC1と結合してこのがん増殖作用を抑制することを見出している。さらに、イタリアBari大学との共同研究により、抗癌活性を有するsigma 2 ligandと呼ばれる化合物群がPGRMC1と結合することを明らかとした(Pharmacol Res. 2017)。また、PGMRC1を介した生理機能について、この発現を抑制できるknockdownマウスの作成し、肝炎やメタボリックシンドロームに対するPGRMC1の効果の解析を推進している。このようなPGRMC1の独自の知見を基に、この機能を制御する化合物の選定を進め新たな創薬展開を目指している。
2: おおむね順調に進展している
これまでに新規ガス応答性ヘムタンパク質PGRMC1の結晶構造解析に成功し、これがヘムを介した新規の2量体構造を示す事を明らかとしている。さらにヘムによる2量体形成によってPGRMC1はEGFRやシトクロムP450と会合して、がん増殖の進展に関わる事を見出している。これらの知見を基に遺伝子組み換えマウスを用いたPGMRC1の未知の生理機能について解析を進めており、肝機能や脂質代謝に関わる知見を得ている。さらに、PGRMC1に選択的に結合して機能を制御する低分子化合物のスクリーニングを実施し、いくつかのシーズ候補化合物を得ている。平成29年度以降も引き続きPGRMC1の機能的な解明行い、この制御による創薬展開を目指す。
これまで明らかとしたheme-stacking 構造を形成したPGRMC1を介した生理的な機能制御の解明のため、PGRMC1に相互作用する因子の解析を行うととともに、マウス個体レベルの機能を明らかとする。(1)PGRMC1に相互作用する因子の包括的解析現在、細胞膜上でPGRMC1に相互作用する因子群について、membrane-based yeast two-hybrid システムで解析しており、約40種以上の候補タンパク質が見つかっている。これらの候補分子として、レドックス制御や脂質代謝・輸送に関わる因子が多く同定されており、これらとPGRMC1の結合様式の解析を行い、癌や炎症に関わる作用の解明を目指す。また、PGRMC1に結合する低分子化合物のスクリーニングを行い、誘導体化などの最適化により創薬シーズの創出を行う。(2)in vivoモデルにおけるPGRCM1の癌・炎症に対する作用の解明現在PGRMC1-KDマウスを用いて、薬剤が効果を示す事が知られる急性肝炎モデルでの検証を行っており、PGRMC1が肝炎発症の要因となる事を見出している。今後、急性および慢性肝炎におけるPGRMC1の作用を解析し、その分子機構の解明を目指す。薬剤スクリーンニングで得たPGRMC1の制御化合物について、動物モデルへの検証を行い、その作用の解明と薬剤の最適化を検証する。
平成28年度は、がん増殖に関わるPGRMC1に作用する薬剤の選定のための予算を計上していたが、イタリアBari大学のAbate博士との共同研究により、創薬シーズの化合物ライブリーとしてsigma 2 ligandと呼ばれる化合物群を無償で供与することが出来た。これらを用いて、PGRMC1に対する薬剤スクリーニングによっていくつかの候補化合物を得ている(Pharmacol. Res., 2017)。そこで、これら候補化合物の誘導体化や、細胞レベル、マウス個体レベルにおける機能解析の費用を次年度に繰り越して計上することとした。
上記のように、平成28年度はPGRMC1に結合して作用する低分子化合物の選定を行い、いくつかの候補を得ている。PGRMC1の構造情報と化合物の結合様式を検証することにより、薬剤の最適化を行って、PGRMC1の癌などに関わる作用の制御について評価を進める予定である。このため、平成29年度は、これら候補化合物の誘導体化や、その作用メカニズムの解明のための受託解析費用、消耗品費用を計上して研究を推進する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (2件)
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