研究課題/領域番号 |
15K07012
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
伊藤 政博 東洋大学, 生命科学部, 教授 (80297738)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アンチポーター / pHホメオスタシス / イオン選択性 / ナトリウムイオン / カリウムイオン / カルシウムイオン / 好アルカリ性細菌 |
研究実績の概要 |
平成27年度は下記のテーマ1~2について取り組んだ。 テーマ1では、3種類のMrp間の同一サブユニットを他のMrp由来のものと交換し、イオン選択性が変化するかを調べた。実験に用いるMrpアンチポーターは、Bacillus pseudofirmus OF4由来のNa+/H+型Mrp、Bacillus alcalophilus AV1934由来のK+/H+型Mrp、Thermomicrobium roseum由来のCa2+/H+型Mrpを用いている。実験に用いる大腸菌は、Na+感受性株(KNabc株)を用いた。2つの遺伝子断片をPCRで連結させる方法によりサブユニットを交換したmrp遺伝子を構築し、この遺伝子を保持するプラスミドを形質転換し、変異型Mrpを発現させた。実験は、初めに複合体I のプロトン輸送サブユニットと相同性があるMrpAとMrpDで行っており、現在、活性測定やタンパク質の発現の確認を行っている。 テーマ2では、自然突然変異によってK+/H+型とCa2+/H+型からNa+/H+型へとイオン選択性が変化した株の取得を試みる。具体的には、Na+感受性大腸菌KNabc株にK+/H+型とCa2+/H+型のアンチポーターを別々に発現させる。野生型のK+/H+型とCa2+/H+型のアンチポーターでは、KNabc株のNa+感受性を相補できないが、これらの形質転換株を75mM-NaClを添加した液体培地で継代培養する。この条件では形質転換株の生育速度は非常に遅いが、何世代か継代培養を続けた後に、200mM以上のNaClを含む寒天培地に菌液を塗布し、この条件で良好な生育を示す株を取得することを試みている。現在までに、目的の変異株は得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績の概要に記したテーマ1に関しては、おおむね順調に進展していると考えている。新しい変異株の構築も順次、進めており、今後更に研究の進展が期待できる。Ca2+/H+型Mrpの一部とNa+/H+型Mrpの残りのサブユニットを組み合わせたヘテロMrp複合体ではCa2+/H+型アンチポート活性が測定されていることから、ここを発展させることで目的の解明につながると期待している。テーマ2に関しては、再現性のある目的の変異株を取得するまでには至っていない。しかし、この方法がうまくいかない場合は、ランダム変異を導入できるerror-Prone PCR法で同様の実験を試みようと考えており、平成28年度の中ほどまでには研究状況を見極めて新しい方法を試みようと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記テーマで得られたイオン輸送に関わるサブユニットや変異箇所の情報を利用し、変異箇所近傍における3種類のMrp型アンチポーターの相同性解析を行うことで、Mrpサブユニットのどこの領域がイオン選択透過機構に重要なのかを選定する。候補領域を選定後は、まずNa+/H+型の候補領域(10~20アミノ酸残基長)をそのまま、K+/H+型とCa2+/H+型アンチポーター内の相同領域と置き換えたキメラ型Mrpを大腸菌発現ベクターにクローニングする。KNabc株にキメラ型Mrpをコードした遺伝子を保持するプラスミドを形質転換し、キメラ型Mrpを発現させる。もしも、キメラ型Mrpが基質特異性を変化させ、Na+/H+アンチポート活性を持った場合、形質転換株が200mM-NaClを添加した寒天培地上で生育することが期待される。この寒天培地上に生育した候補株についての実験は、既に説明した方法で進める。これにより、最終的にイオン選択透過に重要な領域を同定する。 また、これまで蓄積されたNa+型Mrpの変異導入実験の結果と今回の結果、それと複合体Iのプロトン輸送経路情報を利用してMrp型アンチポーターのプロトン側の輸送経路について解析を試みる。これに関しては、Na+(K+、Ca2+)輸送に関与するサブユニットや領域を同定できれば、プロトン輸送領域を絞り込むことができると推定される。そして、複合体I のプロトン輸送サブユニットと相同性があるMrpAとMrpDのどちらか、又は両サブユニットがプロトンを輸送していると推定し、追加の変異導入実験を計画し、解明を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、当初の予定ではランダム変異を導入できるerror-Prone PCR法を用いて変異株の構築を予定していたが、他の実験計画の状況からこの実験法を平成28年度以降に行うこととした。その結果、error-Prone PCR法で用いる試薬や消耗品の購入を行わなかったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に行わなかったerror-Prone PCR法を平成28年度に行う予定である。この実験に必要な試薬や消耗品の購入に充てる予定である。
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