本研究では多くの微生物が普遍的に持ち、感染症や多剤耐性菌予防のターゲットタンパク質としても注目されているMrp型Na+/H+ アンチポーターを研究対象としている。本研究では、この酵素のイオン輸送経路を解明することを目的としている。近年、この酵素の相同タンパク質の中にNa+やK+以外にもCa2+を輸送するものが報告された。そこで、輸送するイオンの異なる3種類のMrpホモログを利用することにより、本研究の目的の解明を試みた。平成29年度は、平成28年度までの成果であるMrpAの5番目の膜貫通領域とMrpDの12番目の膜貫通領域がイオン輸送に関与している可能性を検証するため、Na+/H+型とCa2+/H+型のMrp間でCa2+/H+型のみの保存されたアミノ酸残基6ヶ所を選抜し、Na+/H+型MrpアンチポーターのMrpAとMrpDに部位特異的変異導入法で変異を導入したものを構築した。これらの変異を保持するプラスミドを大腸菌のNa+感受性株(KNabc株)に形質転換し、6種類の一アミノ酸置換Mrpを発現させた。これらの形質転換株のアンチポート活性やNa+に対する感受性、Blue-Native PAGEによる発現の確認を行った。成果として、一アミノ酸置換変異であるにもかかわらずNa+/H+型MrpがCa2+/H+型に共役イオン選択性が変化するアミノ酸部位を3か所同定することに成功した。このことは、本酵素のイオン輸送経路がMrpAの5番目の膜貫通領域とMrpDの12番目の膜貫通領域で形成されていることが明らかとなった。2つのサブユニット間の境界面でイオン輸送経路を作っていることはとてもユニークであり、今後、Mrp型アンチポーターの阻害剤探索研究でも有用な知見が得られたと考えている。
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