研究課題/領域番号 |
15K07016
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
石水 毅 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (30314355)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖ヌクレオチド / 植物 / 細胞壁 / 多糖 / ペクチン |
研究実績の概要 |
ペクチンは、植物の成長時に合成される細胞壁多糖である。ペクチン分子中のアピオース残基がホウ素とのジエステル結合を介して架橋形成に関わり、ペクチンは細胞壁の空間的構築に重要な役割を果たしている。しかし、ペクチン生合成に関与する多くの酵素の同定は進んでおらず、細胞壁構築の分子機構は理解されていない。アピオース転移酵素も未同定である。アピオース前駆体のUDP-アピオース分子が不安定で化合物として利用できないのが一つの原因である。本研究では、UDP-アピオースを安定に単離すること、ペクチン生合成に関わるアピオース転移酵素を同定することを目的とする。この研究は、ペクチン生合成分子機構の全貌を解明する一歩となる。 2015年度はUDP-アピオースの安定化条件を探索し、化合物として単離することを目標とした。大腸菌で発現させたUDP-アピオース/UDP-キシロース合成酵素を基質のUDP-グルクロン酸に作用させた。生成したUDP-アピオースは酵素の至適pHであるpH8で分解が進行し、アピオース-1,2-環状リン酸に分解される。そこで、酵素活性が至適条件の30%ほどあるpH6.5付近で反応をさせ、UDP-アピオースのリン酸部位に嵩高いカウンターイオンを配向させることでの安定化を試みた。カウンターイオンとして約10種類の化合物を試したところ、トリエチルアミンやN-,N'-ジメチルシクロヘキシルアミンなど、一部のカウンターイオン存在下のみで、UDP-アピオースと思われる化合物が生成した。さらに、酵素反応時における補酵素や添加物の濃度についても最適化した。この生成物について、組成分析と質量分析を行い、UDP-アピオースであることを示した。これは、UDP-アピオースを単離することができた初めての実験例であり、当初目標を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、当初計画した2015年度予定を達成したため、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度の研究成果を受けた次の課題は、得られたUDP-アピオースを酵素基質として利用するのに十分な量(mgオーダー)で得ること、UDP-アピオースが安定に保たれる保存条件を見出すことである。十分な量を得るためには、陰イオン交換HPLCで行っている現在の精製方法に改良を加えることが必要である。また保存条件については、保存中の濃度や温度、添加剤について検討している。 UDP-アピオースを基質とし、ペクチン生合成に関わるアピオース転移酵素を同定する研究を開始する。シロイヌナズナの約560種類の糖転移酵素様遺伝子からアピオース転移酵素の候補遺伝子を選ぶ。立体反転型で、UDP-アピオース/UDP-キシロース合成酵素の遺伝子と共発現する糖転移酵素遺伝子、あるいはペクチン生合成に関連するホウ素輸送体の変異を相補する糖転移酵素遺伝子を候補遺伝子とする。 優先順位の高い遺伝子から、当該タンパク質の発現を試みる。pIG121-Hmベクターを用いてタバコBY-2細胞での発現を試みる。Hisタグを付けた発現タンパク質を、アフィニティカラムで精製する。UDP-アピオース(ドナー基質)とオリゴガラクツロン酸(アクセプター基質、調製済み)の混合液に発現酵素を作用させ、アピオース転移活性を検出する。この活性によって、アピオース転移酵素の遺伝子を同定する。 当該遺伝子のノックアウト植物の解析を開始する。ノックアウト植物は、T-DNA挿入シロイヌナズナ変異体として、Arabidopsis Biological Resource Centerから入手する。変異体植物の酵素活性、ペクチン分子中のアピオース含量の測定などペクチンラムノガラクツロナンIIの構造解析を行い、アピオース転移酵素のペクチン合成への関与、ラムノガラクツロナンIIやペクチン架橋が関わる生理機能を明らかにする実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた実験が順調に進行し、当初予算のうち、消耗品費に使用する予定だったものの消費が少なく済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、費用の必要な遺伝子同定の実験(ベクター構築、植物でのタンパク質発現、変異体作成など)を開始するため、生じた次年度使用額をその実験に使用する計画である。
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