研究課題
ペクチンは、植物の成長時に合成される細胞壁多糖である。ペクチン分子中のアピオース残基がホウ素との時エステル結合を介して架橋形成に関わり、ペクチンは細胞壁の空間的構築に重要な役割を果たしている。しかし、ペクチン生合成に関与する多くの酵素の道程は進んでおらず、細胞壁構築の分子機構は理解されていない。アピオース転移酵素も未同定である。アピオース前駆体のUDP-アピオース分子が不安定で化合物として利用できないのが一つの原因である。本研究は、ペクチン生合成分子機構の全貌を解明する一歩となる。2015年度は、UDP-アピオースの安定化条件を探索し、トリエチルアミンやN-,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどの一部のカウンターイオン存在下のみで、UDP-アピオースと思われる化合物が酵素合成によって比較的安定に生成することを見出した。2016年度は、生成したUDP-アピオースをNMRによって構造解析し、実際に安定に単離できたことを証明した。またUDP-アピオースの各生成条件(酵素量、反応時間、基質濃度、補酵素濃度など)、各安定化条件(緩衝液、カウンターイオン、pH)で定量解析した。最適条件下で反応させ、精製条件を検討することにより、UDP-アピオースを1.3mg調製することができた。このように当初目標を達成した。また、これはアピオース転移酵素の基質に用いるには十分な量で、アピオース転移酵素の解析に用いることができる。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」で述べたように、当初計画した2016年度予定を達成したため、「おおむね順調に進展している」とした。
2016年度の研究成果を受けた次の課題は、得られたUDP-アピオースを用いて、アピオース転移酵素を解析することである。まず、アピオース転移酵素の活性測定法を構築する。アクセプター基質として蛍光標識オリゴガラクツロン酸、ドナー基質としてUDP-アピオース、酵素源としてアピオース含量が多いウキクサを用いて、酵素活性を検出する。次いで、シロイヌナズナの約560種類の糖転移酵素様遺伝子からアピオース転移酵素の候補遺伝子を選ぶ。立体反転型で、UDP-アピオース合成酵素の遺伝子と共発現する糖転移酵素遺伝子、あるいはペクチン生合成に関連するホウ素輸送体の変異を相補する糖転移酵素遺伝子をアピオース転移酵素候補遺伝子とする。優先順位の高い遺伝子から、当該遺伝子がコードするタンパク質の発現を試みる。pBI121ベクターを用いてタバコBY-2細胞を宿主とした発現系を用いる。酵素活性を検出できれば、当該遺伝子のノックアウト植物の機能解析を行い、アピオース転移酵素遺伝子に期待される表現系が現れるか観察する。
計画していた実験が順調に進行し、当初予算のうち、消耗品費に使用する予定だったものの消費が少なく済んだため。
今年度は遺伝子同定の実験(ベクター構築、植物でのタンパク質発現、変異体作成など)を開始するため、生じた次年度使用額をそれらの実験に使用する計画である。
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http://www.ismz.sk.ritsumei.ac.jp/