研究課題/領域番号 |
15K07017
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
伊藤 政之 久留米大学, 医学部, 助教 (20442535)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HCNチャネル / イオンチャネル / パルミトイル化 / 翻訳後修飾 / ZDHHCタンパク質 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で我々は神経や心ペースメーカー細胞において自発発火特性の制御を担う過分極誘発陽イオンチャネル(HCNチャネル)であるHCN1,HCN2,HCN4が実際にパルミトイル化を受けていることなどを明らかにした(伊藤ら,JPS 2016)。本研究ではさらなる研究の進展のためHCNチャネルをパルミトイル化する責任酵素の同定を目指した。パルミトイル化酵素(Zdhhcタンパク質)全24種類を発現ベクターに組込み、これらをHEK293細胞にHCN2と共発現させ、クリックケミストリー法によりHCN2のパルミトイル化を促進する分子種を探索し、24種中13種の分子種がHCN2のパルミトイル化を促進することが明らかになった。これについて更に定量的な実験を行ったところ、Zdhhc2,Zdhhc3,Zdhhc7,Zdhhc15,Zdhhc20がHCN2のパルミトイル化を10倍以上促進することが分かった。この中でも特に活性の高いZdhhc3とZdhhc7について詳細に実験を進め、表面ビオチン化法による実験を行うと、これら2種のZdhhcタンパクはHCN2の細胞膜への移行に影響を与えなかった。しかし、Zdhhc3およびZdhhc7はアフリカツメガエル卵母細胞に発現させたHCN2チャネル電流を有意に抑制した。以上の結果から、Zdhhc3,Zdhhc7によるHCN2のパルミトイル化はチャネルタンパク質の細胞膜への移行には関与せず、既に細胞膜上に存在するチャネルタンパク質の活性を調節している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、HCN2に関してはパルミトイル化酵素の同定をすることが出来た。またHCN1に関してもパルミトイル化酵素の探索を進めており、HCN2とほぼ同様の分子種によってパルミトイル化が促進されることを示す予備的な実験結果を得た。脱パルミトイル化酵素についてはHCN2について既知の4種の分子種(APT1,APT2,LYPLA1,PPT1)について実験を行ったが同定には至らなかった。最近、ABHDファミリータンパクと呼ばれる機能未知のリパーゼの一部の分子種が脱パルミトイル化酵素であることが明らかにされた(Lin and Conibear,eLife 2015)。今後、このABHDタンパクがHCN1およびHCN2の脱パルミトイル化酵素である可能性も考慮し、実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
以上の様に主に異所性発現系を用いた実験により、HCNチャネルがパルミトイル化の標的に成り得ることについては明らかにすることが出来たが、今後はその細胞レベル、更には個体レベルでの生理機能の解明に繋がる実験に大きく切り替える予定である。既に新生児心室筋の初代培養細胞を用いた実験を予備的に行ったが、リポフェクション法による遺伝子導入が難しく、またウィルスベクターの構築には時間を要することが想像される。また、HCNチャネルを発現している海馬の錐体細胞の初代培養細胞では一般的にリポフェクション法による遺伝子導入が可能ではあるが、当研究室においてこれまで実績のない実験系であり、こちらについても迅速な実験系の確立は難しい。いずれの場合にせよ根気よく条件の検討を行い、まずは細胞レベルでの生理機能の解明に繋げたい。
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