研究課題/領域番号 |
15K07020
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
前濱 朝彦 国立感染症研究所, 細胞化学部, 室長 (40322755)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 核小体ストレス / PICT1 |
研究実績の概要 |
本研究では、核小体におけるストレス感知・応答の仕組みを明らかにするため、ストレス応答シグナルの中核を担う核小体タンパク質PICT1を起点として、さらに上流へとシグナル経路を遡ることで、ストレス応答の分子機構を解明し、ストレスセンサー分子の同定を目指す。 PICT1は天然変性タンパク質の一つであり不安定な特性を示す。しかしながら細胞内では安定化因子と結合することでプロテアーゼによる分解から逃れている。私達はPICT1に結合するタンパク質として49種のタンパク質を既に同定しており、平成27年度の研究では、これらの中からPICT1の安定化に寄与する分子の同定を試みた。遺伝子ノックダウンによってこれらのPICT1結合分子がPICT1の発現量に及ぼす影響を検討したところ、ノックダウンによってPICT1の発現量が減少するものを9遺伝子、PICT1の発現量が増加するものを3遺伝子、それぞれ見いだすことに成功した。 また、核小体ストレスに応答したPICT1の分解について、その分子機構を探る目的でPICT1に変異を導入し、その分解応答が変化するアミノ酸残基の同定を試みた。質量分析法によって既に同定されているリン酸化やユビキチン化部位に加えて、アミノ酸一次配列から推測される様々な翻訳後修飾部位の変異の影響を検討したところ、あるリジン残基をアルギニン残基に置換した変異体(KR変異体)では核小体ストレスによる分解が著しく低下することを新たに見いだした。このKR変異はPICT1の細胞内局在に影響を及ぼさないことから、本変異によってPICT1分解過程のトリガーとなる反応が抑制されていることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究では、PICT1安定化因子の候補をいくつか同定することが最も重要な到達目標であった。この点に関しては、概要に記したように既に9つの候補分子の同定に成功しており、当初目標は概ね達成することができたと考えている。さらに、本研究の大きな目標の一つであるPICT1の分解過程の分子機構解明についても、PICT1分解の制御に関わることが予想されるアミノ酸残基の同定に成功しており、これまでのところ研究は順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
PICT1を起点とした核小体ストレス応答の仕組みを紐解くため、以下の点を中心に研究を進める。 (1)遺伝子ノックダウンによってPICT1発現量が減少する9遺伝子に関して、in vitroでのPICT1分解アッセイなどを用いて、その遺伝子産物がPICT1安定化因子として機能するかを検証する。また遺伝子ノックダウンがPICT1発現量の増加を引き起こす3遺伝子に関しては、その発現量増加の仕組みの解明に取り組む。 (2)核小体ストレスによる分解に耐性を示すPICT1-KR変異体に関して、ストレスに応答したリジン残基の翻訳後修飾の変化を検討する。またその翻訳後修飾に関わる分子群の同定およびその制御機構の解明を試みる。 (3)核小体ストレスによるPICT1安定化因子の動態、またPICT1安定化因子とPICT1の翻訳後修飾との関わり、などについて解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末納品等にかかる支払いが平成28年4月1日以降となったため、 当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。 平成27年度分についてはほぼ使用済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり。
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