研究課題
本研究では、核小体におけるストレス感知・応答の仕組みを明らかにするため、ストレス応答シグナルの中核を担う核小体タンパク質PICT1の動態を明らかにし、PICT1を起点として、さらに上流へとシグナル経路を遡ることで、ストレス応答の分子機構の解明を目指す。PICT1は天然変性タンパク質の一つであり不安定な特性を示す。定常状態の細胞内では安定化因子と結合することでプロテアーゼによる分解から逃れているが、ストレスに曝された場合には安定化因子との解離が起こり、その結果プロテアソームによる分解を受ける。本研究の前半期の目標は、PICT1安定化因子の同定にあり、前年度の研究ではRNAi法を用いて、私達がこれまでに見出した49種のPICT1結合タンパク質の中から9種をPICT1の安定化因子候補として同定した。平成28年度の研究では、in vitroにおけるPICT1との結合アッセイおよびプロテアソームによるPICT1分解アッセイを行い、この9種の中から3種をプロテアソームによるPICT1分解を抑制する分子として同定することに成功した。また、PICT1のあるリジン残基をアルギニン残基に置換した変異体(KR変異体)が核小体ストレスによる分解に耐性を示すことを前年度の研究で見出しており、平成28年度の研究では、このリジン残基のPICT1分解における役割の解析を行った。その結果、このリジン残基がユビキチン化やSUMO化を受けている可能性は低く、翻訳後修飾としてはアセチル化が起きている可能性が考えられること、また安定化因子との相互作用に関わっていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究では、以下の点が最も重要な到達目標であった。(1)遺伝子ノックダウンによってPICT1発現量が減少する9遺伝子に関して、in vitroでのPICT1分解アッセイなどを用いて、その遺伝子産物がPICT1安定化因子として機能するかを検証する。(2)核小体ストレスによる分解に耐性を示すPICT1-KR変異体に関して、ストレスに応答したリジン残基の翻訳後修飾の変化を検討する。これらの点に関しては、概要に記したように当初目標のほとんどを達成することができたと考えている。PICT1の翻訳後修飾に関しては、アセチル化を検出する系の感度等の問題によって結論を得るまでには至っていないが、新たな抗体の利用などによって改善・進展することが期待できると考えている。以上の点を踏まえて、これまでのところ研究は概ね順調に進んでいると思われる。
PICT1を起点とした核小体ストレス応答の仕組みを紐解くため、以下の点を中心に研究を進める。(1)PICT1の安定化に関わる因子の核小体ストレスに応答した細胞内動態の解析(2)核小体ストレスに応答したアセチル化を含めたPICT1の翻訳後修飾の変化の解析(3)PICT1安定化因子とPICT1の相互作用の核小体ストレスに応答した変化、特にこの相互作用における翻訳後修飾の役割の解析そして、以上の解析を総合することで、PICT1の分解メカニズムの解明、そして核小体ストレスを感知するシステムの解明に繋げることを最終年度となる平成29年度の目標とする。
平成28年10月1日に神戸大学に異動したため、研究補助の活用を計画通りに行えず、それに伴って試薬等の消費財の購入費が当初予定よりも少なくなりました。なお、研究の遂行には影響は生じていないことを申し添えておきます。
繰り越した分は謝金および消費財の購入に充て、平成29年度の研究をより効率的に遂行できるように努める予定です。
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Genes Cells
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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