研究課題/領域番号 |
15K07021
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺田 透 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (40359641)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 分子動力学シミュレーション / タンパク質-リガンド結合 / リガンド結合パスウェイ / リガンド結合シミュレーション / 粗視化分子動力学法 / 変異体 |
研究実績の概要 |
研究対象として、これまでに粗視化分子動力学法を用いてリガンド結合シミュレーション行ったタンパク質・リガンドペアの中から、結合・解離定数の実験値が得られている、levansucraseとsucroseのペアを選定した。このペアについては、昨年度までに全原子分子動力学シミュレーションを用いてリガンド結合パスウェイを精密化し、これに沿った自由エネルギー地形を計算している。しかし、シミュレーションの結果を詳細に検討した結果、パスウェイ精密化の際にリガンドの自由度のみを考慮していたため、離散化したパスウェイ上の点の間でタンパク質の構造に違いが生じ、自由エネルギー地形の連続性が十分ではない、という問題があることが明らかとなった。そこで、今年度はまず、リガンドとパスウェイ周辺のタンパク質残基の両方の自由度を考慮したリガンド結合パスウェイ精密化と自由エネルギー地形の計算を行った。その結果、リガンド結合ポケット内に準安定状態が存在し、本来のリガンド結合状態との間に自由エネルギー障壁があることと、リガンド結合ポケットに入るところに、エントロピー的な障壁があることが明らかとなった。この結果に基づき、当初計画していた、リガンド結合パスウェイが通るタンパク質表面の溝の両側に存在する残基に加え、準安定状態においてリガンドと相互作用し、この状態の安定化に寄与している残基について変異体を作成した。作成した変異体それぞれついて、5 μsの粗視化分子動力学シミュレーションをリガンドの初期配置と初速を変えながら50回行った。その結果、いずれの変異体についても22回から32回のリガンド結合イベントを観測することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、変異体の設計のために、全原子分子動力学シミュレーションの結果を詳細に見直した結果、従来のリガンドの自由度のみを考慮したリガンド結合パスウェイ精密化には問題があることを明らかにし、リガンドとタンパク質の両方の自由度を考慮したリガンド結合パスウェイ精密化を改めて実施した。更に、自由エネルギー地形計算のためのシミュレーションの量を2倍に増やすことで、精度の向上を図った。これらによりこれまでの計算では明らかになっていなかった、リガンド結合ポケット内の準安定状態の存在を明らかにすることができ、変異体設計にこれらの知見を活かすことができた。計画では、1か所について複数種類の変異体を作成する予定であったが、タンパク質表面の溝を構成する残基については、溝を塞ぐような変異が有効であると考えらえることから、トリプトファンへの変異が最も適当であると考えられる。また、準安定状態の安定化に寄与している残基についてもアラニンへの置換が最も適当である。従って、上述の再計算により、粗視化分子動力学シミュレーションにかける時間が減ってしまうこととなったが、変異体の種類を合理的に絞ることで、当初の目的通りに研究を遂行することができたと評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
リガンド結合・解離速度定数の予備的な計算の結果、タンパク質表面の溝を構成する残基の変異体では結合速度の変化は小さいものの、解離速度が速くなっている可能性が示唆されている。また、準安定状態の安定化に寄与している残基の変異体については、主要なリガンド結合パスウェイが別のパスウェイに移っている可能性が示唆されている。しかし、いずれも現在のデータだけでは精度が十分ではないため、更にシミュレーションの量を増やすことで精度の向上を図り、これらの変化が実際に起きているのか明らかにしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国内学会参加のための旅費を他の研究費から支出したことと、計画していた英文論文の一部の執筆が平成27年度中に完了しなかったため、英文校閲や投稿料の支出が少なくなったことにより差額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
差額分は、主に英文論文の校閲費や投稿料に支出する予定である。
|