研究実績の概要 |
我々は、多くの免疫学の教科書に載っている「一つの抗体は一つの抗原を認識する」という概念から外れ、「複数の抗原を特異的に認識する」ことのできる抗体G2を発見した(Kamatari et al., Protein Sci. 23, 1050-1059, 2014)。本研究は、このG2の抗原認識機構を構造生物学や生物物理的な立場から解明することである。 本年度は、G2の認識する3つめのタンパク質SEPT3上のエピトープ配列(Pep395)の同定を論文化した(Mahmud et al., Protein Sci. 26, 2162-2169, 2017)。この配列は、免疫源のトリプリオン蛋白質(ChPrP)中のエピトープ(Pep18mer)とも、G2の認識するもう一つのタンパク質ATP6V1C1中のエピトープ(Pep8)とも大きく異なっていた。3つの全く異なる配列を強く認識できる抗体の報告は初めてである。さらに、我々はG2の原型の抗体(G2VL95P)は、3つ目の抗原(SEPT3)を認識する抗体で、軽鎖可変領域の95番目のProの欠損により、抗体作成に使ったChPrPへの結合能を獲得したことを見いだした(Usui et al., Biochem Biophys Res Commun. 490, 1205, 2017)。本研究により、G2のユニークな抗原認識機構や抗体の分子進化の一端が明らかにされた。本研究のさらなる発展は、蛋白質の機能発現機構の解明、抗体の抗原認識の概念の拡張、蛋白質の分子進化の理解、さらには、二つの経路を同時に阻害しするという新規抗体医療創出にも繋がる可能性がある。
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