研究課題/領域番号 |
15K07028
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 広島大学, 放射光科学研究センター, 助教 (40403620)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 円二色性 / 真空紫外 / 生体膜 / 線二色性 / 二次構造 / 蛋白質 / 分子配向 / 放射光 |
研究実績の概要 |
放射光を利用した真空紫外円二色性(VUVCD)法は、水溶液中の蛋白質のCD測定を真空紫外領域(190nm以下)まで拡張できるため、従来のCD法と比べ得られる構造情報が格段に増加する。また本手法は、蛋白質の種類に制限が無く、様々な溶媒条件下で測定できる利点を持つため、X線結晶学やNMR法では困難な生体膜と相互作用した蛋白質の構造解析に有効である。そこで本年度は、生体膜相互作用環境下の蛋白質の構造解析法を発展させるため、VUVCDと線二色性(LD)法を融合した手法をいくつかの膜結合蛋白質の構造研究に応用した。 VUVCD分散計とFlow-LD観測システムを用いて、3種の蛋白質(α-ラクトアルブミン: LA,チオレドキシン: Trx,β-ラクトグロブリン: LG)のVUVCDとLDスペクトルを,ホスホグリセリドから成るリポソーム存在下・非存在下で170 nmまで測定した。VUVCD解析から3種の蛋白質はリポソーム存在下で,天然状態よりもへリックスの長さや本数が増加し,特徴的なへリックスに富んだコンフォメーションを形成することが分かった。これらの二次構造情報をニューラルネットワーク法に組み込むことで,へリックス領域のアミノ酸配列を予測した結果、いずれの蛋白質も2本のへリックスがリポソームと結合していることが示唆された。さらにLDスペクトルから,LAでは2本の両親媒性へリックスがリポソームの表面に結合,Trxでは2本の疎水性へリックスが膜表面に垂直に結合,LGでは疎水性・両親媒性へリックスが,それぞれリポソーム表面に垂直・水平に結合することが示唆された。このように、VUVCDとLD分光法の併用から,生体膜と結合した蛋白質の構造について新たな情報が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 極薄Flowセル(75μm)を備えたFlow型LD測定システムを用いて、生体膜表面での蛋白質の二次構造配向の解析を可能とした。また、VUVCD分光を融合させることで、3種の蛋白質の二次構造含量・本数・配列・配向の同時解析を実現した。これにより、VUVCDとLDを組み合わせた分光法が、膜結合蛋白質の詳細なコンフォメーション解析に有効であり、NMRやX線構造解析では困難な多くの蛋白質-生体膜相互作用の研究に応用できることを示したため。 2. 研究実績の概要で示した、典型的な3種の蛋白質以外に、平成28年度で行う予定のα1酸性糖蛋白質(AGP)やミエリン塩基性蛋白質(MBP)の先行実験を行うことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
1.VUVCD分散計とFlow型LD測定システムを用いて、様々な種類の生体膜と結合したAGPやMBPの二次構造含量・本数・配列・配向の解析を行うと共に、これら蛋白質と生体膜との相互作用機構および蛋白質構造と機能の関係を明らかにし,VUVCD分光を用いた蛋白質-生体膜相互作用系の構造解析法の確立を目指す。 2.VUVCD法・分子動力学(MD)法・CD理論を用いて、β2-microglobulin断片ペプチド(#21-31及び#21-29)のアミロイド線維の高次構造解析を行う。具体的には、MD法でシミュレートした断片ペプチド構造から,CD理論を用いてVUVCDスペクトル算出する。実測スペクトルとの比較から,水溶液中でのアミロイド線維のコンフォメーションを詳細に解析する。pHに依存したアミロイド線維のコンフォメーションの違いも詳細に解析する。これらの研究により、pHやアミノ酸配列に依存したアミロイド線維のコンフォメーション及びその形成機構の違いについての知見を得ると共に,VUVCD分光法を用いた蛋白質-蛋白質相互作用系の構造解析法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
窓材などの消耗品の費用が当初予定したよりも少額になったこと、当初出席を予定していた学会を日程が合わず欠席したこと、論文投稿費や別刷代の支払いが年度を越しになったことが差額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度における学会や研究打ち合わせの旅費及び研究に必要な消耗品に使用する計画である。また、論文投稿費等の支払いに使用する計画である。
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