研究実績の概要 |
放射光を用いた真空紫外円二色性(SR-VUVCD)法は、水溶液中の蛋白質CDを真空紫外領域(190nm以下)まで観測できるため、従来のCD法と比べより詳細で新規な構造情報を得ることができる。またVUVCDは、生体膜存在下のような様々な溶媒環境下で測定できるため、X線結晶学やNMR法では困難な膜結合蛋白質の構造解析に有効である。そこで本年度は、VUVCD法を、神経細胞の軸索周辺に存在するミエリンの安定化に重要な膜結合蛋白質、ミエリン塩基性蛋白質(MBP)の構造研究に応用し、膜結合状態におけるMBP構造を明確にし,MBPと生体膜との相互作用機構について考察した。 VUVCD分光法を用いて,ミエリンを構成する5種類のリン脂質(phosphatidylcholine:PC, phosphatidylethanolamine:PE, phosphatidylserine:PS, phosphatidylinositol:PI, sphingomyelin:SM)生体膜存在下におけるMBPのVUVCDスペクトル測定から,MBPは天然変性蛋白質であり,PC, PE, SM生体膜存在下では構造変化せず,PSとPI生体膜存在下ではα-helix構造を形成することが分かった。VUVCDとニューラルネットワーク法の組み合わせ法から,アミノ酸配列上での二次構造の位置予測を行った結果,MBPはPSとPI存在下で6つのα-helix領域を形成し,その内5つの領域で正味電荷がプラスであることが分かった。PSとPI生体膜表面はマイナスに帯電しているため,MBPは静電的相互作用により両生体膜表面と結合しα-helix構造を形成することが示唆された。またこれらのα-helix領域は,生体膜の条件により両親媒性へリックスを形成することが分かった。
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