研究実績の概要 |
放射光を用いた真空紫外円二色性(VUVCD)法を、生体膜存在下でのα1-酸性糖タンパク質(AGP)とミエリン塩基性タンパク質(MBP)の構造研究に応用し、両蛋白質の生体膜との相互作用機構について考察した。 1 生体膜存在下でのAGPの構造解析 細胞内薬物輸送に関わるとされるAGPの天然状態は、βストランドリッチな構造であるが、phosphatidylinositol (PI, 正味電荷:負)リポソーム存在下でVUVCD測定した結果,天然状態では15%であったへリックス含量が53%まで増加することが分かった。アミノ酸配列レベルの二次構造解析を行った結果、薬物結合サイトを含むAヘリックス領域と含まないGヘリックス領域が生体膜と結合可能な部位であることが分かった。これらAとG領域のペプチドを合成しリポソーム存在下でVUVCDスペクトルを測定したところ,Aペプチドのみで構造変化が観測された。A領域は、両親媒性のアミノ酸配列でもあることから、この領域が生体膜と静電的相互作用により結合し、これがトリガーとなり,AGPのβ-α構造転移が誘起されることが示唆された。この結果は、相互作用の初期段階で、薬物結合サイトが崩壊することを示している。 2 生体膜存在下でのMBPの構造解析 神経細胞軸索を取り巻くミエリン鞘のコンパクト化に寄与するMBPは、静電的相互作用により生体膜表面と結合すると考えられる。本年度は、この静電的相互作用を高めると考えられるPI4,5ビスリン酸リポソーム存在下で、VUVCDによるMBPの構造解析を行った。その結果、ヘリックス含量がPIのみよりも増加し、PI存在下では形成されなかった両親媒性ヘリックスが観測された。この結果は、ミエリン化に関わるMBPの生体膜との相互作用には、生体膜頭部の種類だけでなくその正味電荷の強さも大きく寄与することを示唆している。
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