骨格筋・心筋の収縮は、細胞内カルシウム濃度がマイクロモル未満の条件下では抑制されており、この抑制がトロポニンへのカルシウム・イオンの結合によって解除されて収縮がもたらされる。 この制御ではカルシウムのシグナルが、トロポニン→トロポミオシン→アクチンと伝達され、ミオシンがアクチンと結合出来るようになる。この過程、特に低カルシウム濃度での収縮抑制機構の構造的基盤を得るために、アクチン・トロポミオシン・トロポニン複合体からなるフィラメントのクライオ電子顕微鏡写真を数千枚収集した。 収集した写真から数百枚を選んで、それらから抽出した約1万個の粒子像を解析し、二次元像の予備的分解能が約 5Å に達していることを確認した。これらの粒子像から複合体の予備的な三次元像を再構成し、構造の主体であるアクチンのらせん構造の他にトロポミオシン・トロポニンに対応する密度が観察できた。 複合体のフィラメントは直径が100 Å以上あるために、薄い非晶質の氷に包埋することは困難である。氷が厚い場合には、デフォーカス量が3マイクロメーター未満では、フィラメント像の確認が難しく、デフォーカス量を3マイクロメーター以上にすると高分解能データが得にくい。このディレンマを克服するために、同じ試料をまず、3 マイクロメーター未満のデフォーカス量で撮像し、次に3 マイクロメーター以上で撮像するダブルフォーカス法を用いた。後者の写真から目視で確認したフィラメントの位置の座標を用いて、前者から高分解能情報を含む粒子像を抽出できるようになった。これらの粒子像の平均像をテンプレートとして、後者の写真から自動的に取得したフィラメントの位置座標を用いて、前者の写真から自動的に粒子像を抽出できた。 今後、ダブルフォーカス法を用いて得られる粒子像から高分解能の三次元像を再構成し、これまでに得られている構造の更なる高分解能化を図りたい。
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