研究課題
マスト細胞には、炎症性メディエーターを含む分泌顆粒がある。細胞が抗原を感知すると、分泌顆粒が形質膜と融合して、内容物を細胞外に放出する(開口放出)。この開口放出の膜融合過程には、SNAREと呼ばれるタンパク質が重要な役割を果たしている。我々は、形質膜上のSNAREタンパク質(SNAP-23/syntaxin-3)と分泌顆粒膜上のSNAREタンパク質(VAMP-8)を、それぞれ微小リポソームに組み込み、混合するとリポソーム間で膜融合が引き起こされることを明らかにした。本研究では、これらのSNAREタンパク質を、細胞サイズの巨大リポソームに組み込むことで、開口放出様の膜融合の可視化解析を行うことを目的とする。初年度は、SNAREタンパク質が組み込まれた、巨大プロテオリポソームの作製を試みた。無細胞タンパク質合成系を用いて、マスト細胞のSNAREタンパク質を合成した。抗SNARE抗体を用いたウエスタンブロットを行ったところ、syntaxin-3とわずかながらSNAP-23の合成を確認することができた。その一方で、VAMP-8の合成は確認することができなかった。次に、巨大リポソーム存在下で同様に合成を行い、SNAP-23とsyntaxin-3が組み込まれたリポソームの作製を試みた。ウエスタンブロットを行った結果、syntaxin-3の組み込みは確認することができたが、SNAP-23の組み込みは確認することができなかった。またプロテアーゼ処理により、組み込まれたsyntaxin-3の配向性を確認したところ、ほぼ100%が外向きに組み込まれていることが確認された。本研究成果は、新たなSNAREリポソームの作製方法の開発に向けて役立つものと考えられる。
3: やや遅れている
現在までのところ、細胞サイズの巨大リポソームに、syntaxin-3を外向きに組み込むことに成功している。その一方で、SNAP-23とVAMP-8を巨大リポソームに組み込むまでには至らなかった。したがって、現在までの達成度としては、やや遅れていると判断した。
今後は引き続き、SNAP-23, VAMP-8を巨大リポソームに組み込むための条件検討を行い、SNARE依存性の膜融合の可視化解析へと進める予定である。克服すべき課題としては、無細胞タンパク質合成系を用いた際に、SNAP-23とVAMP-8の合成量が低いことがあげられる。そこで次の2つの実験条件を検討し、合成量の改善を図る。(1)コドンの最適化を行った遺伝子を用いて合成を行う。(2)可溶性のタグ(GST等)を付加させて合成を行う。また並行して、油中水滴法をアレンジした方法も行い、巨大SNAREリポソームの作製を試みる。具体的には、油中水滴法の水層に大腸菌を用いて発現・精製したSNAREタンパク質を展開する。油層中で水溶液を懸濁し、遠心を行い、SNAREタンパク質が組み込まれた巨大リポソームを得る方法である。
「次年度使用額」が生じた状況については、サンディエゴにて開催された、米国細胞生物学会への参加を予定していたが、校務のために参加をキャンセルしたことから生じたものである。
平成28年度は1,100,000円配分されており、また平成27年度「次年度使用する予定」の139,021円を加えると、合計1,239,021円となる。使用計画は、次のとおりである。物品費:1,100,000円、旅費:100,000円、その他:39,021円。主に、SNAREタンパク質の合成、リポソームの作製、膜融合の可視化解析に必要な消耗品、及び学会等での情報収集のための旅費である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件)
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