研究課題/領域番号 |
15K07036
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
井尻 貴之 摂南大学, 理工学部, 講師 (20629620)
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研究分担者 |
山本 正道 京都大学, 医学研究科, 非常勤講師 (70423150)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 卵細胞 / 精子 / ATP / ライブイメージング / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
本研究課題は生殖細胞におけるエネルギー代謝を総合的に理解することを目的としている。そのためにツメガエル卵細胞とマウス精子を対象として、主にATPイメージングの手法を用いて解析している。 平成27年度中に卵細胞のエネルギー代謝の理解に繋がる基礎データの多くを蓄積することができたため、平成28年度は精子ATPイメージングに関連した解析を中心に行った。精子ATPイメージングでは、引き続き蛍光ATPプローブをノックインしたマウス(ATeamノックインマウス)の精子を蛍光顕微鏡下で観察した。平成27年度の予備実験で観察できた精子中での蛍光ATPプローブの蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は非常に弱かった。そのため、ATP量の変化を正確に反映した結果を得るためには、十分な強度のFRETを観察することが重要となる。まずイメージングに使う機器の検討を行ったところ、電子増倍機能CCD素子を搭載したEM-CCDカメラを用いることでより強い精子のFRETを検出することができた。また、使用するATeamノックインマウスの検討も行っている。これまでの解析で用いたATeamノックインマウスは蛍光ATPプローブを細胞質で発現する系統であり、ミトコンドリアで発現する系統を使用するための準備を始めた(後述)。 さらに、観察したATeamノックインマウス精子のFRETが実際の精子の生理的な状況を反映しているか評価することも重要となる。精子のATP量を測定できる系があれば、精子の置かれた様々な生理的条件とATPの関係を対応できるため、FRETを基にした結果の解釈に役立てることが可能となる。そのため、連携研究者である京都産業大の横山博士の研究室においてルシフェラーゼによる活性測定を利用した精子ATPの定量を試したところ、200万匹程度の精子を用いればそこに含まれるATP量を測定することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は研究代表者が摂南大学で研究室を開設した初年度であるため、研究室のセットアップに多大な時間を費やすこととなった。本研究費助成事業からの補助により、ツメガエル卵細胞へ阻害剤や蛍光プローブをインジェクションするためのオートインジェクター・ピペットを購入し、9月から研究室に分属された学部3年生7名に実験指導を行いながら系を立ち上げた。また、ルシフェラーゼによる精子のATPを定量する系を摂南大学で立ち上げる必要もあり、現在取り組んでいる。このように、新たな研究室で様々な実験システムをセットアップするための試薬・機器を購入し予備実験を行っていたため、本研究課題に関する具体的な研究成果を得るには至らなかった。 研究の進捗が滞っている一方で、第87回日本動物学会大会で5名の演者による「オルガネラから精子と卵を理解する」というシンポジウムを主催した。特に、本研究課題の卵細胞のエネルギー代謝に関する研究を遂行する上で参考になるマウス卵成熟時のミトコンドリアの動き等の知見を得ることができただけでなく、共同研究者から本研究課題を達成するために有益な助言を受けることができた。 また、平成28年度に研究分担者の京都大学の山本博士の研究室から摂南大学に移入したATeamノックインマウス(細胞質で発現する系統とミトコンドリアで発現する系統)は順調に維持できている。これらのマウスは研究代表者の研究室で精子のATP量を測定するためにも利用できるため、今後の研究課題の進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度も精子ATPイメージングの解析を優先する。蛍光ATPプローブを精子特異的にミトコンドリアで発現させることで十分な強度のFRETを観察することができると期待している。そのために、精子特異的に組換え反応を起こすStra8-CreマウスとATeamノックインマウスを掛け合わせる必要がある。Stra8-Creマウスは公的機関に精子の状態で保存されており、適切な手続きの後に研究代表者が譲渡を受け、体外受精後に胚盤胞まで培養して偽妊娠マウスの子宮に移植して出産させる。学外の共同研究者の指導を受けて、この一連の手技を研究代表者の研究室の学部生たちに修得させて進める予定である。同時にルシフェラーゼによる活性測定を利用したATP定量を行い、精子ATPイメージングで得られるFRETの結果を判断するための基礎データを蓄積する。活性化させた精子や先体反応後の精子など様々な生理的状況下の精子を詳細に調べる上で、凍結精子だけでなく精巣上体から取り出したばかりの精子も解析の対象とする。 さらに、卵細胞のエネルギー代謝を解明するためには、細胞内で高効率にATPを産生するミトコンドリアの局在を観察して、これまでにイメージング解析により得られたATPの変化との対応を調べることが必要である。そのために、研究代表者の研究室の学部生たちを指導して、ミトコンドリア感受性の蛍光プローブをインジェクションしたツメガエル卵細胞を共焦点レーザー顕微鏡下で観察し立体的なミトコンドリアの分布を調べることも計画している。 また、平成29年度も第88回日本動物学会大会で「Oogamous reproduction: 卵生殖を担うシグナル伝達機構」というシンポジウムを主催するとともに、研究代表者も演者として卵細胞のエネルギー代謝に関する研究成果を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に引き続き、精子ATPイメージングでより強い精子のFRETを観察するためのカメラ等の条件設定や、ATeamノックインマウスの交配に時間を費やした。そのため、精子ATPイメージングの実験に使用する予定であった助成金を使い切ることがなかったことが次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は精子ATPイメージングにおいて、蛍光ATPプローブをミトコンドリアで発現させることでもFRETの強度を上げることを目指す。そのために必要なStra8-Creマウスを作製するために受精卵の培養・操作を行うため、マウスや試薬・培地を購入する計画である。
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