本研究課題では生殖細胞におけるエネルギー代謝機構を明らかにするために、ツメガエル卵細胞とマウス精子を対象にしてATPの変化を調べた。 これまでのツメガエル卵細胞におけるATPイメージング系による解析から、通常ATPは卵成熟誘導後にしばらく増加し続けるが、ATP合成酵素の阻害剤を加えた時だけでなく解糖系の阻害剤を加えた時にもATPの増加タイミングの遅延がみられた。また、ツメガエル卵細胞が成熟した指標であるホワイトスポットの観察からも、阻害剤を用いた結果ツメガエル卵成熟ではATP産生に酸化的リン酸化だけでなく解糖系も使われていることが示唆された。さらにATPイメージングにより、ツメガエル卵細胞では卵核胞崩壊後にATPが減少することが明らかになっている。この時のATPの消費先の一つとしてタンパク質のリン酸化が考えられるが、平成30年度にもチロシンリン酸化を検出する抗体を用いてウェスタン解析を行い、それを強く示唆する結果が得られた。 マウス精子におけるATPイメージングのためには蛍光ATPプローブ(ATeam)を精子特異的にミトコンドリアで発現するマウスが必要である。平成30年度には、ようやくATeam遺伝子をホモにもつマウスが得られ、さらに公的機関から精子特異的に組換え反応を起こすStra8-Creマウスの提供を受けたため、これらのマウスの交配を行っている。目的のマウスが得られ次第、その精子のATPイメージングを行い、ATP動態の観察から精子の機能とミトコンドリアの関係を調べる。一方で、平成30年度にはATeamノックインマウスを用いて、ルシフェラーゼ反応により200万匹程度の精子に含まれるATP量を測定した。以前の予備実験同様に、受精能獲得後の精子では受精能獲得前に比べてATP含有量が30%前後減少していた。この基礎データは実際にイメージングを行う際に有益な情報となる。
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