研究課題/領域番号 |
15K07037
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
米澤 康滋 近畿大学, 先端技術総合研究所, 教授 (40248753)
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研究分担者 |
鷹野 優 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (30403017)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プロトン透過 / 膜タンパク質 / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究は、電位依存型プロトン透過性膜タンパク質VSOPの原子レベルでの機能を研究する事を目的としている。VSOPの立体構造は連携研究者である大阪大学中川教授の研究室でX線結晶構造解析手法で解明されたが、その構造はプロトン透過に関わる開いた(Open)構造と閉じた(Close)構造の中間構造であると考えられている。VSOPの機能を研究する為にはOpen構造とClose構造の情報が不可欠であり、28年度はこれらの構造を予測するために分子動力学シミュレーション研究を遂行した。
VSOPはS1からS4の4本の膜貫通へリックス領域からなる構造を取っている。生理学的実験から明らかとなった塩橋相互作用を再現するようにS4へリックスを脂質2重膜垂直方向に実験から予想される程度分移動した。Open構造を得るためにはS4を細胞膜外方向に移動し、Close構造を得る為にはS4へリックスを細胞内内側に移動した。次にVSOP構造で欠損している側鎖原子及びループ部分をmodellar等のツールで補正した。得られた全長のVSOP膜タンパク質を予め平衡化したPOPCの脂質2重膜に挿入して平衡化の分子動力学シミュレーションを実施した。平衡化したVSOP膜タンパク質と脂質2重膜の系を100nsecから200nsec定圧力(1気圧)定温度(310K)の条件下で長時間分子動力学シミュレーションを実施した。得られた構造から、水分子を透過させないClose構造とグロッタス機構でプロトンを透過すると予想されるOpen構造を得た。Close構造に関して分子シミュレーション中に何個の水分子が透過するかを計測するプログラムを作成しその水分子透過個数を計測したところ全く水分子を透過しない計算結果を得た。これに加えて粗視化モデルによるOpen、Close構造の探索分子動力学シミュレーションも実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はVSOPの開いた構造と閉じた構造を探索するための分子動力学シミュレーションを遂行して生理学的な実験事実を反映する構造を得る事ができた。 これらの構造からは、 1)Close構造からは特別な2つの塩橋ペアを形成する事で水分子の透過及びプロトン透過の両方を厳密に阻害する分子機構が存在する可能性が示唆された。 2)Open構造からはこれまで全く不明であったプロトン透過機構がグロッタス機構によって実現されている可能性が大きいことを、分担研究者との議論及びトラジェクトリー解析から明らかにすることができた。 Close構造で特別な2つの塩橋ペアの存在が透過阻害の原因であることはこれまでに報告されていない全く新規な知見であり、VSOP機能の解明に大きな貢献をすると考えている。加えてOpen構造から指摘されたプロトン透過機構は、VSOP膜タンパク質の構造ダイナミックスがプロトン透過を制御している事を示唆している。連携研究者岡村教授の実験生理学的な検証からVSOP機能の本質であるプロトン透過の新たな性質が明らかにされることが期待される。 以上の様に研究代表者と分担者及び連携研究者が密接に共同研究を遂行して成果を挙げつつある事から本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかとしたVSOPのOpen構造、Close構造、中間構造を手掛かりとして、分子動力学シミュレーションと数理情報解析を駆使した解析手法を使ってその機能の解明を推進する予定です。 OpenとClose構造にはさらなる異なったへリックス相互配置を有する構造の存在が考えられるため、粗視化分子動力学シミュレーションでVSOPの構造探索を実施してOpen及びClose構造のより一層の特定と検証を目指す。またグロッタス機構によるプロトン透過をVSOP膜タンパク質のダイナミックスを考慮して分子動力学シミュレーションで再現する試みはこれまでに前例がない。 タンパク質のダイナミックスがプロトン移動などに寄与する可能性はこれまで指摘されているが本研究の分子動力学シミュレーションで実際に検証する意義は大きいと考えています。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、研究計画を実施する為に不可欠なPCクラスターを科学研究費補助金15H01360と合算して購入しました。PCを分割購入ではなく合算購入する事で高価なPCクラスターシステムを想定価格よりも安価に導入する事ができた為に次年度使用額が生じました。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は研究課題に関わる情報収集・広報によるより一層の推進のために使用します。計画はほぼ順調に進捗している為、研究成果を学会等で発表する回数を増やして研究内容を外部に広報するとともに研究情報の収集などにも努めたいと考えています。
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