研究課題/領域番号 |
15K07038
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
櫻井 一正 近畿大学, 先端技術総合研究所, 准教授 (10403015)
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研究分担者 |
李 映昊 大阪大学, たんぱく質研究所, 講師 (70589431)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アミロイド線維 / フォールディング / 凝集中間体 / 温度圧力変性 |
研究実績の概要 |
期間全体の研究計画は、(i) :圧力蛍光装置を用いアミロイド線維の構造状態のP(圧力)T (温度)相図を作成する、(ii) :PT 相図の形状から、ΔVやΔCp などの熱力学的パラメータを決定する、(iii) :(i)で見出した条件下で線維もしくはオリゴマーの構造状態を同定する、(iv) :(ii)と(iii)の結果をもとに、オリゴマー中間体の構造と熱力学的性質の関連性を議論する、というものである。 27年度は特にαSyn に的を絞り、蛍光によるこの蛋白質のアミロイド線維の圧力変性の温度依存性を測定し、相図の作成を行うことを目標とした。これまで、アミロイド線維構造の温度依存性は円二色性スペクトルにより直接モニタする方法が確立していたが、高圧下ではその方法が使えないため、まず異なる方法を検討した。その結果、試料にチオフラビンTというアミロイド線維に特異的に結合する蛍光試薬を使い、その蛍光変化をモニタすることでアミロイド線維構造の圧力依存性を測定できることが分かった。 27年度後半はこの測定法でαSynアミロイド線維の圧力依存性を調べた。本実験を開始するうえで、アミロイド線維の圧力変性が可逆的、二状態的に進むと想定していたが、実際に測定を行うと、この想定から外れる挙動を示すことがいくつか観測された。具体的には、圧力解離したαSyn線維は除圧後再形成されない、圧力解離の挙動が線維の構造の成熟度によって異なる、などである。熱力学的解析のためには反応の可逆性、状態数などを理解する必要があり、観測された挙動をどのように解釈するべきかを現在検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の目標は蛍光を用いてαSynのアミロイド線維の圧力変性の温度依存性を測定し、相図の作成を行うことであった。本実験を開始する時点ではアミロイド線維は蛋白質が取りうる一つの構造状態であるので、これまで天然構造において発展してきた構造状態の熱力学をアミロイド線維構造にも適用できると仮定した。つまり、この天然構造における解析では構造の圧力変性が可逆的、二状態的に進むと想定しており、本研究のアミロイド線維の実験についても同様の仮定をした。しかし、研究実績の概要の欄で述べた通り、初期の観測からこの想定から外れる挙動を示す結果が得られた。例えば、圧力変性の明確な可逆性が観測されておらず、この現象をどうモデル化し、従来の熱力学の説明に当てはめるかを検討をしている状況である。 このような状況であるので、当初の実験計画と比較するとやや遅れているという判断になる。しかしこの想定外の発見は、蛋白質のとる天然構造とアミロイド線維構造の間に熱力学的な観点で特徴的な差異があることを示唆している。当初の想定とは異なるものの、よりもっともらしいモデルを提示し、それを支持する実験結果の収集に方向修正をすることを検討している。 また、基本的な課題として、実験に用いる蛋白質試料の供給が測定実験の進行に対して遅れていたという点も挙げられる。より計画的かつ効率的な実験試料供給法についても今後よく検討する。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要や現在までの進捗状況の欄で述べた通り、H27年度には、圧力変性が可逆的ではない、線維構造の成熟度に依存して圧力変性の挙動が異なるなど、アミロイド線維の圧力変性が可逆的、二状態的とは異なる挙動を示すことが分かってきた。これらの結果から、当初の計画(ii)のPT相図作成が比較的単純な系で説明できず、3状態以上の異なる分子種を想定してモデル化し、従来の熱力学の説明に当てはめるかを検討する必要が生じている。そのためには、圧力変性中に蛋白質がどのような分子種として存在するかをよく理解しておく必要がある。 そこで今後の方針として、蛍光測定だけでなく、研究代表者の保有する圧力NMR、ゲル濾過HPLCや、分担者の所属する研究室が保有する分析用超遠心、原子間力顕微鏡等で圧力処理サンプルの測定を行い、会合状態(モノマー、オリゴマー、線維)の存在分布について把握する。これらの結果をもとに、複数状態を想定した相図作成を試みる。 元々、相図上のオリゴマー存在領域を同定することが後半の目標のひとつであったが、初めの段階からこのことを考慮する必要があるものと思われる。 また、試料供給に関する問題も挙げたが、現状を考慮すると蛋白質分子の構造状態の同定にさらに集中する必要があり、試料供給の時間を減じる必要がある。そのため、試料蛋白質の発現精製を外部委託することなどを選択肢に入れ、研究の速やかな遂行のための工夫をしていきたい。
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